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不協和音(19)

楽器に限らず趣味で始めたことを人前に出すということは、その時点で評価が伴う。上手いか下手か順位やランクをつけられることはもちろん、下手をすれば試験やチームワークまで求めらるなんてプレッシャーまでかかる。

上を目指すという意識自体を否定するつもりはない。ただ楽しむことに対して周りの目を気にすることは宮路にとって苦痛だった。

幼い頃から身長と運動能力に恵まれた彼は運動部でも実績を残せたし、人のために動くことも厭わないタチだった。率先して行動を起こすことはなくても学生の頃はそれで何の問題もなかったし、周りも彼を必要としてくれた。自分でもその要求に対して充分に応えてこれたのでないかと思っている。

そんな自分も社会人になり学校のように周囲に合わせる必要がなくなってからは、個人で楽しめる音楽に時間を割くようになった。チームワークが必要ないなら率先して身体を動かすこともなかったし、元来マメだったため好きな音楽を探求することや楽器を練習することにも苦痛を感じなかった。

そういう宮路の音楽に対する長所は、ギターに限らず演奏全体を俯瞰できる視点だった。初めからギターだけに注力してきたわけではない彼はリズムの重要性も理解していたし、ボーカルも一つの楽器として認識していた。

そういう意味ではバンド経験のない唯一のメンバーであるにもかかわらず、逆にパートに捉われない貴重な視点を持っていたと言える。城はそんなことはまるで関係なくフィーリングで声をかけたつもりだったが、お互いにとってそれは功を奏した形となった。

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「意外と早くまともなメンバー集まったよな」

それが成田がスタジオに入って感じたことだった。彼がこの辺りに最近引っ越してきたというのは仕事の都合であり、もともとは都会で社会人バンドのドラムとしてコピーを中心に活動していた。

城の勤めるVOLTを見つけたのも偶然で、バンドを結成するにあたり都会の経験をもとに楽器屋から当たるつもりだった。あちらでは希望するジャンルや年齢から社会人バンドも、とりあえず楽器屋の張り紙を見に行けば選択肢が広かったからだ。

都会はバンド人口も多くジャンルをある程度指定したメンバー探しも比較的容易だった。しかし地方都市に移ると楽器をやっている社会人が少なく、さらにやりたい音楽性も条件に加えると驚くほどメンバー集めに苦労した。

あてにしていた楽器屋の募集のビラも少ない。面倒だけどこれなら自分から募集した方が結局は早道と考え、意を決してビラを作ることを決意した。

個々の楽器店を回っているうちに、店側でも特に募集のポスターには定型がなく制限はしていないと聞き出した。極端に大きなものは困るという話は笑いながら店員に聞かせてもらったが、B5くらいなら大丈夫だということでそれでも充分だよと思った。

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