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こんな舞台を観てきた(2023年11月)

11月はお芝居3本とコンサート1本を鑑賞。

↑これまでの観劇記録はこちら↑


尺には尺を

「シェイクスピア ダークコメディ交互上演」と題して、「尺には尺を」と「終わりよければすべてよし」の二作品が同時期に上演される今回の試み。
できれば二作品とも観劇した方がいいんだろうなと思いつつも、今回は「尺には尺を」のみを観劇。

「尺には尺を」を前回観たのは、2016年の彩の国シェイクスピア・シリーズでの上演。
今回のプロダクションを観ながら、「あれが蜷川さんの遺作だったな」とか、「あの時は、ヴィンセンシオ役を辻萬長さんが演じていらしたな」とか7年前のことを思い出していた。

全体的にまとまりがあって、非常に良い公演だった。
キャストは皆安定感のあるお芝居で、2階のリーズナブルな席で観劇していても、しっかりと台詞が伝わってきた。

ラストシーンの解釈

「尺には尺を」が問題劇と呼ばれる要因の一つは、ヴィンセンシオがイザベラに対し、唐突に求婚を申し込むラストシーンにあると思う。

蜷川さんの演出では、イザベラが白い鳥を空に放つシーンを付け加えることで、少しばかり後味のいいラストに仕上げていた。

今回のプロダクションは、ヴィンセンシオの言動に困惑しているイザベラの表情をたっぷり見せているのが印象的だった。
現代の感覚からすると、受け入れにくいラストシーンを受け入れにくいものとして、そのまま提示する潔い演出なのかなと思った。

演出・スタッフ

今回の演出は鵜山 仁さん。オーソドックスかつ手堅い演出でシェイクスピアの問題劇を対処されていた印象。
舞台の始め方が非常にスマートで、開場時から流れている音楽の音量が上がり、そのまま物語がスタートするという流れだった。一幕の終わり・二幕の始まりも同様の手法で、非常にシームレスだった点が良かった。

一方で、所々気になる点もあった。
例えば、舞台上の茂みには、家電・自転車の車輪・ライフル銃?、などのゴミが散乱しており、何を意味するのだろうと思った。(美術:乘峯雅寛さん)
また、どこのシーンかは忘れてしまったが、ヘリコプターが旋回しているような音がして、こちらも気になった。(音響:上田好生さん)
おそらく、どちらも物語に現代性を持たせるような意味合いがあるのかなと推測するが、私が観ている限りではそれ以上は読み取れなかった。
パンフレットを買うと何か意図が書いていたのかも知れない。

今回の上演は、小田島雄志さんの翻訳。
言葉遊びを巧みに織り込んだ活き活きとした文体で、韻を踏んだ台詞に思わずクスリとさせられた。特に。庶民同士の掛け合いのシーンは、結構砕けた文体で、親しみやすい仕上がりだった。

キャスト

アンジェロ役の岡本健一さんは、シェイクスピア劇で拝見するのはおそらく初めてだけれど、長台詞がいい意味でナチュラルに聞こえて、さすがだなと思った。
到底肯定できないような言動をする役柄だけれど、根っからの悪人というより、道を踏み外した人間の哀れさを感じた。

イザベラ役のソニンさんは、シリアスな役どころのイメージが強いけれど、笑いどころも外さない。クローディオ役の浦井健治さんとの息のあった芝居では、客席を大いに沸かせていた。
終盤のアンジェロを告発するシーンで、周囲に信じてもらえず、逆に嘲笑われる様子は、昨今の性犯罪のニュースとオーバーラップするようで、観ていて辛かった。

蜷川演出を観劇した際と、一番異なる印象を抱いたのは、木下浩之さん演じるヴィンセンシオだ。
前回の辻萬長さんのヴィンセンシオは、好々爺のようなイメージだったが、今回久しぶりに観て、「なんて嫌な役なんだろう」と思った。もっともらしいことを言ってはいるものの、周囲を困惑させて、かなり迷惑な人物だと感じた。
今回のプロダクションは、問題劇を問題劇として真っ向から提示していたと思うので、観ている人に嫌悪感を抱かせるこの役作りで正解だと思う。

ルーシオ役の宮津侑生さんも印象的だった。前回見た時はそこまで印象がなかったが、今回のプロダクションでは観客から笑いをかっさらっていた。
本来ルーシオ役を演じるはずだった方が怪我で降板したことで、代役として登板したようだが、そんな経緯を感じさせないお芝居だった。


ドリーム・キャラバン 2023

公演自体は素晴らしかっただけに、舞台が見えづらい席を取ってしまったことを非常に後悔。

会場は、東京オペラシティ コンサートホール。
A席の3階バルコニー席を取ったところ、舞台がおよそ半分しか見えない結果に…。
上手側のバルコニー席だったので、下手側は見えるものの、上手側で歌われると声は聞こえるものの、姿が見えない。
新国立の小劇場はバルコニー席でもそこそこ視界が良いので、そのイメージでチケットを取ったら大失敗だった。
チケットを取った私の自己責任ではあるものの、ここまで見えないなら予め注釈付きチケットとして販売して欲しかったなぁと思ってしまう。

公演自体は素晴らしく、中でも濱田めぐみさんの"Can You Feel the Love Tonight"を聴けたのが一番の収穫だった。
劇団時代に濱田さんのナラは拝見したことがなく、退団後もこれまでは生で聞く機会がなかったので、この一曲を聴けただけでも行く価値はあったなと思う。

↑濱田めぐみさんとの個人的な出会いの話↑


連鎖街のひとびと

毎年一作品は観劇しているこまつ座。

今回が22年ぶりの再演と、上演頻度は高くないようで、確かにこれまで観劇してきた他の井上ひさしの戯曲と比べると、少しパワーが弱い印象を受けた。

あくまでも私個人の印象だが、一幕の前半はなかなかのスロースタートで、物語の焦点が定まらない印象を受けた。一幕後半になり、登場人物が出揃うと、物語の輪郭がはっきりとして面白くなってきた。

今作は他の井上作品同様、「反戦」が物語のテーマの一つとなっているが、それ以上に「演劇への愛」を強く感じた。
また、市井の人々への眼差しが温かいことが、井上さんの作品の良さだなと改めて感じた。


無駄な抵抗

危うい脚本だなというのが、観劇後の第一印象。
「オイディプス王」を原典とした物語ということで、ある程度想像はついていたものの、細かなところで微妙に引っかかる表現があったのは事実。
とはいえ、私の感性では、完全にアウトの表現があるわけではなく、この辺りの塩梅が非常に難しいなと感じた。
前川さん自身がインタビューで「作風を変えつつある」とお話されているので、今後も観劇しないと何とも言えないところがあるなと思う。

ステージングは今回も素晴らしく、役者の方が特定の役として台詞を言った後に、すぐにコロスに切り替わる様は、なかなか他の舞台では観ることができないと思う。

また、土岐研一さんの舞台装置も非常に印象的だった。
世田谷パブリックシアターの丸みを帯びた客席と、舞台上の駅前広場のセット(古代の円形劇場のようにも見える)が見事に呼応していた。
前回の「終わりのない」に続き、具象化し過ぎないところがいいなと思った。

終演後には、安井順平さん・穂志もえかさん・大窪人衛さんの3名によるポストトークが実施された。
安井さんが「今回は世田谷パブリックシアターの主催公演だけれど、劇団員が5名も参加しているので、稽古場はほぼイキウメの現場だった」とお話されているのが印象的だった。
確かに観劇している側としても、いい意味でイキウメらしさを感じる公演だった。

↑イキウメの公演の観劇記録↑

今月観劇した中で、一番印象的だったのは「尺には尺を」。
同じ作品でも、前回の観劇から時間が経ってカンパニーも変わると、随分と受ける印象が異なると実感した。

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