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春告鳥


春はいちばん、すきな季節です。
風がそよぎ、花が咲き、新たな可能性が芽生える季節。
うららかで、おだやかで、自然の息吹を感じます。

そして学校に勤務している私にとっては、めぐる季節のなかで 最も大きな節目の時季でもあります。

出会っては別れ、別れては出会う。
年度変わりに生まれるさまざまな感情は、この季節がすべて包み込んでくれるよう。

今週は「春は名のみの 風の寒さや」のようですけれど、うららかな春は すぐそばまで来ています。





* * *

仕事のおはなし

私にしては めずらしく、すこし仕事(本務)のおはなしを。
といっても、あまり具体的には書けませんけれど…。今年度はちょっと、特別な年になったと感じています。


*

職場では今年度も、いろいろなことがありました。
私にとって良いことも、そうでないことも、これでもかというくらいに起こったような気がします。今も起こり続けている、と言う方が合っているかもしれません。

その中にあって私は、自分の非力さを痛感することもしばしば。
つい最近も、私の期待とは真逆のことが起こり、努力も徒労に終わるのかと意気消沈することがありました。

けれど今、この季節を迎えて 今年度を総体的に振り返ると、それなりに納得できる道を歩むことができたのではないかと思えるのです。


3年かけて一つの区切りを迎えたこと、
2年越しで実を結んだある取組み、
はじめての挑戦でなんとか形に残せたこと。

そんなことがありました。
それらはきっと、「成果」と呼ぶほどのものではないのでしょう。他人ひとさまから見たら、ちっぽけなことかもしれません。
けれど私にとっては大きなこと。ここに至るまで、それぞれに「人」と関わりあい、繋がりあいながら、一歩一歩を愛しみ、歩んで来れたように思います。
そうして歩んだ道は、振り返っても、前を見ても、私にだけはちゃんと “見える” ような気がするのです。
すってんころりんと、転んだ跡があちこちにあるところも、私らしくて いとおしいな。


*

私は今年度、永年勤続表彰を受けました。この職場に入ってから もうそんなに月日が経ったのかと、驚きました。

今、あたらしい春を迎えて。
感慨深さをおぼえるとともに、「もう、これで良いのですよ」と、自分をゆるしてあげているような、ちょっぴり不思議な感覚に包まれています。


明日は卒業式。
入り口から出口まで、深く深く関わり続けた数名の学生も、次のステージに向けて旅立ちます。
私が立ち上げの申請業務から行った社会人コースで、初の卒業生です。


にじむ視界に、卒業証書を手にした彼女たちの姿があらわれたら、どんな言葉をかけましょう。

…… 何も言えないかな。


* * *


うつわのおはなし

さて、うつわのおはなしを、すこし。
今回タイトル画像にしたうぐいすについてです。
今の私の、タカラモノ。


おはなしは、昨年の “うつわ旅“ に遡ります。
私は昨夏、九州北部のやきものの里を巡りました。

そのうつわ旅で、『はぜの谷窯』を訪れたときのこと。奥唐津と呼ばれる山深い場所に佇むその窯元で、私はある決めごと・・・・をしたのでした。

今年2月に開催されるという、二代目・吉野敬子さまの遺作展で、何かひとつ、吉野さまの作品をお迎えしようと。そう心に決めていたのです。


通常ならお買い物には具体的に目的の物があるわけですけれど、今回はそうではありません。
ビビッときたならなんでも良い。吉野さまの作品であれば。そして私に手の届くものであれば(ここは重要)。そう思っていました。


*

先月23日のこと。
作品と出会える展示会が開催初日を迎えました。
遺作展は数ヶ月先になったようですけれど、すてきな形での展示でした。新宿の柿傳かきでんギャラリーで開催された『唐津焼11人展』。11人のうちお1人が、吉野敬子さまです。

私はスタートの11時めがけて突進し、そして出会ったのがこのうぐいすでした。
うぐいす ってひらがなで書きたいけれど、作品名に「鶯」って書いてあったので漢字にしています。


蓋物です。


こんなに愛らしいやきものがあるでしょうか。

あたたかな鳥の体温まで伝わってきそうです。

おそらく使われているであろう砂岩は、自然の「土」そのものを思わせます。
緑色の釉薬により、鶯の色あいが見事に、でも慎ましく表現されています。

吉野さまはきっと、あの緑あふれる山あいに響く 鶯の声を聴きながら、これをつくられたのではないでしょうか。

「畑から生まれるようなやきものをつくりたい」。そのお言葉がこだまするようです。


*

展示会場には、錚々たる作家さんの作品が並んでいました。
その中にあって、吉野さまの作品は大人気。スタートしてから数分の間に、いくつもの作品の行き先が決まってゆきました。
みなさま同じ思いでここにいらしたのね、と想像しつつ、私がこの鶯とめぐり逢えたことは、きっと運命に違いないと勝手に確信し、しあわせな気持ちに包まれたのでした。


展示会初日に購入した鶯ですが、もちろん会期中はそのまま展示して頂きました。
そして会期が終了し、先日、私の手元にやってきました。あの日、たくさんおしゃべりさせて頂いた ギャラリーの女性からの、あたたかなお手紙を添えて。




きっと、心躍るような日も、ちょっぴり疲れたときも、ちょん と首をかしげてしずかに見守ってくれるのでしょう。


ようこそ、かわいい鶯さん。


この春を、告げに来てくれて
ありがとう。


到着した日に
庭の福寿草と。




* * *


早春賦そうしゅんふ

春は名のみの 風の寒さや
谷のうぐいす 歌は思えど
時にあらずと 声も立てず
時にあらずと 声も立てず

氷解け去り 葦は角ぐむ
さては時ぞと 思うあやにく
今日も昨日も 雪の空
今日も昨日も 雪の空


春と聞かねば 知らでありしを
聞けば急かるる 胸の思いを
いかにせよとの この頃か
いかにせよとの この頃か

作詞:吉丸一昌 作曲:中田 章


……2月に出逢ったとき。吉野さま作の鶯は、もうすぐですよと こっそり春を知らせてくれました。





最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。




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