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裏裏ひよこ日記。クリスマスのマジックタイム

無事にかえってこれた。頭がふわふわクラクラしている。

時空の移動に時空酔いみたいなやつ?そして今まで感じたことがなかった何かが自分の中で蠢いている。悪い感覚ではない。むしろ好転させるような何か。頭の中で何か組み換えされているような


しばらくしてアルベルトが帰宅してきたが、やっぱり同じ症状がひよこにも出たらしくがひよこのほうがむしろ具合が良くなさそうだった。

アルベルトは帰るやいなや即ひよこの部屋に行き、ひよこの無事を確認して安堵したようだった。

夕飯はひよこが食べたいと言ったトマトリゾットを急いで作り始めた。わかりやすくてとても良い。

明日からみんな揃ってイギリスに帰るつもりだったがアルベルトは急な呼び出しをされているらしく2日後にイギリスに来る予定になってしまった。ひよこが一緒に行けないの?と尋ねると
アルベルトはきまり悪そうにちょっとどうしても行かないと行けない用事ができてね。と目線を逸らした。もしかしてガブリエルに呼び出し食らったのだろうか。ボスはひよこに付き添いしてきたので多分一部始終を見聞きしている。だとしたらやっぱりガブリエルに話は行っているのかもしれない。

ひよこは大好物のアルベルトが作るトマトリゾットをおかわりすることなく(非常に珍しいパターン)なんかクラクラするからもう寝ると自分の部屋に戻ろうとしているところをアルベルトに引き止められていた。気を使ってくれてるのか声を小さめにひよこと話をしている

アルベルトは明日明後日ひよこちゃんに会えないから。今日は一緒にいたいと言っている。ぽい。まあ、そうだろう。きっとオレがアルベルトでも同じこと言うだろう。

たっぷり夕飯を食べてもう寝る。昨日あまり寝れなくてさ。おやすみと言い残し自室に戻った。

アルベルトとひよこのことは十分に理解しているし今だったらアルベルトの焦っていた気持ちもよく理解できる。だからこそ今のアルベルトの混乱気味の感情だって理解できる。

わたしの幸せはわたしが作る。とあっちのひよこが言っていたがこっちのひよこも全く同じだ。

旅の支度は済んでいるので早々にベッドに入ることにした。昨日一昨日もらった手紙を読み返すべくベッド脇にある灯りをつけ、もう一度じっくり手紙を読み返し、ふっと口角が上がり、あ、そうだと今までもらったクリスマスカードや誕生日のお祝いメッセージやもっと昔にもらった手紙や撮った写真の数々を引っ張り出して眺めながらこんな事あったな、あんなトラブルあったなとか思い出とその時感じた感情と今とを比較しながらオレやっぱり戻れて良かった。とかしみじみしながら寝たのであった。

次の日、アルベルトは何だか気分が良くなさげな様子で外出の支度をしていた。ひよこがそれを見つけて大丈夫?と心配している。心配されたのが嬉しかったのかアルベルトはひよこにべったりくっついていた。あんな気難しい男を懐柔できるなんてあいつやっぱり大したヤツだとなぜか自分がニヤける。なぜだ?謎だ。

かえったらひよこちゃんが、いない。と悲しそうにアルベルトが呟いている。
ひよこは用事が済んだらすぐに来てね?待ってるね?とハグした。
それに安心したのかアルベルトは僕のためにあありがとうとひよこをぎゅうぎゅうハグしていた。全くわかる。それな?と思う。やっぱりオレなんかちょっと違う。かもしれない。

飛行機の時間があるのでオレとひよこも急いで支度を済ませる。
ひよこはなぜかほんのちょっとよそよそしい。

ん?

イヤあはは。とひよこはちょっとだけ目がキョロキョロしてる。

あー、もしやお前オレに惚れた?と軽口を叩くとひよこからガシッと足を蹴られた。そう、こういうのがいいのさ。そういう普通が一番さ。

ヒースローに着くとトマスとポールが待っていてくれた。イギリスは雪で安定の底冷え。馬車の時代が懐かしすぎる。今は車でヒーターもばっちり完備。あの時代も悪くはなかったけどオレはいまが一番今のオレが気にいっている。
自分らしく素直に生きているこの感じがとても居心地が良い。大嫌いだった生家も苦い結末を迎えたタウンハウスも当時の自分自身も今なら全部丸ごと受け入れる事ができる。クリスマスの生家の厳かな佇まいもあの時代全部捨てたかったいろんな事も全部赦せるような気持ちになれたのも横で首がもげそうな勢いの角度で寝ているヤツのおかげ。あまりに頭がゆらゆら揺れているのでシートベルトを外して大サービスだからな?と膝掛けを上まで引っ張りあげ横に起こさないようにすうーっとずらして膝枕してやった。

トマスが助手席からなんとも微笑ましいですな。と満足気にしていた。

生家につくまで2時間ちょっと。その間ひよこは全く起きなくてずっと寝ていた。たまにムニャムニャ寝言を言っていたようだったがちゃんと聞き取れなくてちょっと悔しい。ネタにしたかったのだが。

生家はロンドンよりももっと雪でいつもの景色の倍くらい白に覆われていた。

着いたぞ。と起こすとひよこは自分がまさかオレに膝枕されているなんてみたいな顔して赤面していた。ウケる。

たっぷり寝たのかひよこはすっかり元気でおまけに雪が積もっていて更にマギーが気を利かせてひよこが前に大きな森の小さな家ごっこしたい!と話していたことをまだ覚えていたようで外遊び用にメイプルシロップを煮詰めていてくれていた。

オレのひよこはそれを聞いてワクワクしてすぐに遊びに行きたい様子だったので日が暮れる前にひと遊びするかと雪積もるヒースの丘に連れ出した。ワーキャー言って騒いでる。ついでに散歩に連れ出した犬達が駆け回っている。
時間の流れが殊更ゆっくり感じられて遠くから教会の鐘の音が響いてくる。日はもう少ししたら落ちてしまうのであともう少ししかここにいられない。

ひよこは雪にダイブして人型を取るのに夢中になっている。その前はソリで丘を滑り降りて遊んでいた。なので頬は赤くなっていて鼻のてっぺんも赤くなっている。

お前何歳だよ?と突っ込みたいがソリ遊びをしていたのはオレも同じなのできっと多分オレも同じ事態になっているに違いない。

お前、シロップそろそろ固まったんじゃないのか?

あ、そうだ!見てくる!

わ!できた!できてた!
冷たくて美味しい!一個いる?

ああ。
あ、うまいな。

でしょっ!!

なんかこのひと凄い高い宝飾品とかハイブランドとか他人がひけらかす持ちものにそこまで興味ないのがわかった気がした。

こういうのが一番嬉しくてそそられるんだろう。

帰ったら時期外れの農場の少年のエッグノッグ作ることも忘れてはならない。
出かける前に材料はあるか?と尋ねるとマギーはエッグノッグ?と笑っていた。

ここ。深めの雪だから人形取るのにいいんじゃないのか?

あ?ほんと?

ひよこは躊躇いなくボスっとダイブして雪に沈んだ。

なんか楽しそうだな。とつられてオレもボスっと雪にダイブした。

ちょうど教会の鐘がなり始め夕暮れと夜の始まりのマジックタイムみたいなオレンジと紫の空に月がうっすらで、なおかつ粉雪が舞い出した。

ああ、綺麗。ほんと素敵。すごく素敵

いっぱい遊べたか?

うん!

帰ったらエッグノッグとハイジのチーズパンするんだろ?シチューは木のボウルによそうだったっけ。

そうそれ!!もう嬉しくて!!

ひよこは超ご機嫌だった。

今ならいいかな。と思う


あのさ

うん。次はオーロラ観に行こう

うそっ!!ほんとに?

それが指輪の代わりでもいい?

、、、へっくしょい!

は?ちょっとマジお前何なんだその変なくしゃみ。

いや、なんかごめん。鼻がむずむずして

おかしくてたまらない。

ぶははははははっと爆笑すると

笑いすぎと怒っている。

鼻水垂れてないよね?大丈夫よね?

そんな確認オレにさせんな。


…オーロラ楽しみにしてる。
指輪はくれていいよ?

ちゃっかり聞いてるし。

いるんだ?つけないくせに

わたしに選ばせてくれるなら。

あー、そういうことね。

そゆこと。

じゃあオレのも選んで。

いいよ。

…お前意味わかってる?

なんとなく。間違いではないことを祈る

ふはっ

…雪が服にしみてきだした。さっさと決めるか。マジックタイムのうちに。


…こっちの世界は結婚制度がないだろ?

そうだね。

ずっと一緒にいたいんだ。

うん。

親友で同士で背中を預けられるとても大切な存在。でももっと…それ以上でもありたい。一生のパートナーになってくれたらもっと嬉しい。家族になりたいんだ。結婚制度はここにはないけど…そういう存在にオレはなりたい。
…絶対に後悔させないから。

うん

幸せにしたいし守ってあげたい。それと一番の理解者でありたい。

…うん。

指輪。一緒に選んでくれなきゃやーよ。

わかってる。

勝手に全部決めたりしないでね。一緒にいっぱい考えて一つ一つ決めたいの。

ああ。

こうしてほしいとか助けて欲しいとか、サポートしてほしいとかこれはイヤなんだ。とかをお互い無理なく言えるように2人で協力し合っていきたい。お前とならできるんだ。それが。

うん。

…ぐすっ…ありがとう。不束者ですがよろしくお願いします。

こちらこそ。とこしえによろしく。な?

雪の丘に2つの人形を残して帰路につく。
2つの人形は手を繋いで仲良くくっついていた。


帰ったらエッグノッグと暖炉の前に陣取ってハイジのチーズパン作りと木のボウルによそうクリームシチュー。にジンジャークッキーにはミルク。

それが俺達の希望した今年のクリスマス。

マギーは驚いていた。
ご馳走はアルベルトが来てからにしたいんです?難しいですか?無理は言いません。準備してくださっていると思うので。

まあまあそんなの!気にしなくて大丈夫ですよ!確かにアルベルトさんが、来てからのほうがいいに決まってますものね。そういたしましょう。

わがまま言ってごめんなさい。でも希望を聞いてくださってありがとうございます。

ひよこは誰にも対等に接する。最初は面食らっていたうちの使用人たちもひよこのマジックにやられたらしい。ひよこは舘で大人気だ。
かわいくてかわいくて仕方ないらしい。

もちろんオレも。

思い出に残るクリスマスになるだろう。















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