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『星の王子さま』

 お盆も、我が家はほぼ通常モード。旅行代わりに、帝国ホテルで『星の王子さま』アフタヌーンティーを食べました。

 基本、感動系の物語は苦手なはずなのに、いくつか例外があって、例えば映画の『ショーシャンクの空に』なんて、好きすぎて海岸で最後のシーンを再現してしまったほどです(夫が船の修理をするアンディ、息子が鞄を持ったレッド役)。

 サン=テグジュペリ作の小説『星の王子さま』も大好きな小説です。
 色んな解釈ができる物語ですが、十代の頃読んだ説明が心に沁みついています。『星の王子さま』は記憶の中にある友の話なのだと。飛行士は王子さまとの思い出を語り、王子さまはバラの花との思い出を語る。彼らとは二度と会えないかもしれないけれど、友情の記憶があるだけで人生は豊かになる…。

 当時はまだ幼くて、人生に別れがつきものだとは知らず、それどころか、今の人間関係がずっと続くように感じていたのですが、その説明を読んで、「そういうものなのかもしれないなぁ」と考えたものです。
 作者であるサン=テグジュペリも、かなしい別れを繰り返しながら……彼らの思い出を記憶にとどめるために、この美しい物語を書いたのかもしれないとも考えました。

    *

 何だか寂しい話になってしまいましたが、『星の王子さま』には、楽しいエピソードも多いです。

 王子さまに「羊の絵を描いて」と頼まれた時に、語り手の操縦士が描いた絵。

 王子さまは、この羊、病気だよ! とがっかりする。
描き直した絵は…。

 よぼよぼじゃん。ぼくは、長生きする羊がいいのに。
 語り手は、イラっとして、こんな絵を描きます。

 ぼくはいってやった。
「ハコ、ね。きみのほしいヒツジはこのなか。」
 ところがなんと、この絵を見て、ぼくのちいさなしんさいんくんは目をきらきらさせたんだ。
「そう、ぼくはこういうのがほしかったんだ! このヒツジ、草いっぱいいるかなあ?」
「なんで?」
「だって、ぼくんち、すごくちいさいんだもん……」
「きっとへいきだよ。あげたのは、すごくちいさなヒツジだから。」
 その子は、かおを絵にちかづけた。
「そんなにちいさくないよ……あ! ねむっちゃった……」
 ぼくがあのときの王子くんとであったのは、こういうわけなんだ。

『あのときの王子くん』大久保ゆう訳 青空文庫より


 『星の王子さま』には、「物事は心で見なくてはよく見えない。一番大切なことは目に見えない」という文章があります。王子さまは、心の目で箱の中にいる羊を見たんでしょうね。
 絵が下手な私は、難しい絵をせがまれるたび、操縦士を真似て、ハコの絵を描いたものです…。

 アフタヌーンティーでは、羊が入ったこのハコが羊のチーズとイチジクのタルトで再現されていました。よぼよぼの羊はホワイトチョコの絵に。

バオバブの木
シュークリームで再現


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 『星の王子さま』の世界観そのままの素敵なアフタヌーンティーでした。


 サン=テグジュペリ作『星の王子さま』には複数の翻訳があり、岩波少年文庫と光文社古典新訳文庫はKindle Unlimitedで読むことができます。青空文庫にも絵付きの新しい訳があります。


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