海人

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青空文庫の小説や村上春樹さんの小説について書いています。たまに映画や歴史、美術館の話も。週1〜2回投稿。

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    オチのない自作の創作をまとめています。シロクマ文芸部参加作品など。

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村上春樹『街とその不確かな壁』を読む 海外文学と音楽 プレイリスト付き 前篇

 普段は『村上春樹の短編を読む』というタイトルで、村上さんの短編に登場する海外文学や音楽について書いていますが、今回は村上さんの新作『街とその不確かな壁』に登場する海外文学や音楽について取り上げます。ストーリーなどには極力触れないようにするつもりです。 フロベール『感情教育』  主人公が読んでいる小説です。  フロベールは19世紀フランスの作家で、無駄を排した緻密な文体で知られます(日本語ではよくわからないのですが、単語一つたりとも削るところがない作家だそうです)。『感情

    • 【創作】四月は残酷な月 #シロクマ文芸部

      春の夢は、はかない。そう思うのは、春が桜の季節だからだろう。咲き誇ったかと思うと、数日で散ってしまう花。俺の恋も……  酔っ払って、バイト先の雑記帳にこんな文章を書き散らした。その後、下宿に戻り莫迦なことを書いたものだと恥ずかしくなった。明日は朝一で店に行って、あのページを破り取ろうと決めた。  俺がバイトをしている〈カフェ・砂時計〉は、夜には酒も飲める店だ。大学から近いので、もとはサークルの連中とよく利用していたのだが、賄い飯がつくという話に釣られて働き始めた。自分が客

      • 【雑談】仕事と読書

         『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本が売れているそうだ。多分、思い当たる人が多いのだろう。  そんな人もいるのだなと少し驚いた。私には当てはまらないので。それどころか、仕事が大変だった時期は最も本を読んだ時期でもあるからだ。  正直、本がなければ正気を保てなかったとすら思う。  とにかくブラック企業だった。一応正社員だったので給料はそんなに悪くなかったけど、拘束時間が長いし、仕事もハード。同じ営業所に配属された子は統合失調症を発症したし、鬱発症などは日常茶飯

        • 【ミニ旅行記】色とりどりの花たち #シロクマ文芸部

           花吹雪が舞う中、列車に乗りました。ひたち海浜公園内を走る列車、シーサイドトレインでの話です。ネモフィラを見に行ったのですが、山桜がまだ残っていたので、強風にあおられてピンクの花びらが舞いました。  この前の日曜日には、水戸に桜のお花見に行き、「偕楽園は葉桜が多いけど、千波湖はまだ見頃だね」と言っていたのに、水曜日にはネモフィラのお花見。一気に季節が進んだのですね。  ネモフィラの群生地の写真を見て、綺麗は綺麗だけど、ちょっと人工的な気がしていました。SF映画に出てきそう

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        村上春樹『街とその不確かな壁』を読む 海外文学と音楽 プレイリスト付き 前篇

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          太宰治『右大臣実朝』 滅びを予感した悲劇の人

           『右大臣実朝』は太宰治の長編小説です。実朝って、地味な人ですよね。ネットの感想を見ても、『鎌倉殿の13人』関連で読んだという方がほとんど。  このドラマを観ていないので、ウィキをちらっと眺めたところ、三谷さんの解釈は、「現代の視点では、もうこれしかないだろう」というものでした。文書には残っていないので、歴史学的に「実朝には同性愛的傾向があった」とは書けないと思いますが、まだ二十代半ばなのに「実朝には後継ぎができない」前提で話が進んでいるわけですから。同性愛ではなくても、女

          太宰治『右大臣実朝』 滅びを予感した悲劇の人

          理想の異性 #シロクマ文芸部

          「風車の弥七って誰?」  学生食堂で鶴野さんと同じテーブルになった時、そう訊ねてみた。鶴野さんとは、語学のクラスが一緒だった。週五時間だけのクラスだけど、顔合わせの食事会をやったり、名簿を作ったりで、クラスメイトの顔と名前はほぼ一致していた。  クラス名簿には、名前や電話番号以外にもいくつか記入欄があった。「理想の異性は?」という欄があったのを覚えているのは、鶴野さんのおかげだ。「風車の弥七」という文字が今も脳裏に焼き付いている。他の子が何と書いたかは全く記憶にないのに。

          理想の異性 #シロクマ文芸部

          2024年3月 読書記録 川端、太宰、モリスン&マッカーシー

          3月は海外文学を2冊、日本の作家では川端康成・牧野信一・太宰治の小説を読みました。 トニ・モリスン『ジャズ』(大社淑子訳・早川epi文庫)  モリスンの小説は、これまでに初期に書かれた『ソロモンの歌』と『ビラヴド』を読んだのですが、この二作に比べて『ジャズ』はとても読みやすかったです。タイトル通りに、リズム感のある音楽的・詩的な文章が続くので、休日に一気読みできました。読者を選ぶ小説だとは思いますが。愛についの小説なんですね。欠落を抱えた者や自分を見失った者が他者とのつな

          2024年3月 読書記録 川端、太宰、モリスン&マッカーシー

          突然消えた剛ではなく、フレディやほんの少しカールスモーキーのこと #シロクマ文芸部

           変わる時がある。誰にでも。  私の場合は高二の六月だった。突然、剛が消えた。    剛は、バンド仲間だった。というか、剛が友達三人と組んでいたバンドに私たちが押しかけて、マネージャー役をやったり、曲によってはキーボードを弾いたりしていた。中三の学園祭で、フレディの「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」を薫が歌うのを観てーー今にして思えば、私もあの時薫が気になったのかもしれないけど、何であれゴチャゴチャ考えてしまう私は、自分にさえ気持ちを素直に認めることができなかった。だけど、光留は「

          突然消えた剛ではなく、フレディやほんの少しカールスモーキーのこと #シロクマ文芸部

          【雑談エッセイ】ベーと呼ばれた娘 または皆様へのお願い

           美奈子はファッションセンスがない。ファッションに興味もなかった。若い頃は常にアニエスベーで身を固めていたので、ベーと呼ばれた。確かに当時アニエスベーの人気は高かったが、そればかり着るのも何だかね。しかも、美奈子はAパターンのコーディネートとBパターンのコーディネートを交互に着る。季節によってはCパターンまであったが、それ以上はなかったし、AシャツとBスカートを組み合わせたりもしない。AシャツにはAスカートと頑なに決めていた。興味のないことに使う時間は最小限にとどめたかったの

          【雑談エッセイ】ベーと呼ばれた娘 または皆様へのお願い

          京都・定番旅行

           3月上旬に帰省を兼ねて京都を訪ねました。  実家が大阪北部、中高は京都市内に通っていたので、主な観光スポットはだいたい訪問済みなのですが、今回はあえて定番の場所を巡ってみました。   最初に訪ねたのは知恩院。浄土宗の総本山です。法然が営んだ草庵が起源のお寺ですが、現存の三門や御影堂(本堂)は徳川秀忠・家光が再建したものです。大きな鐘でも有名なお寺ですが、本堂から更に上に登らなければならないということで、今回は省略。  知恩院の隣が枝垂れ桜で有名な円山公園です。織田作之助

          京都・定番旅行

          太宰治『津軽』を読む

           日本の小説と縁が薄かったわりには、太宰治の小説はそれなりに読んできた方です。『人間失格』『斜陽』『富岳百景』など代表作を読んできたのに、『津軽』だけはなぜか読んでいませんでした。太宰が好きな知人が津軽を旅して、太宰の生家である斜陽館に行った話も聞いたのに、縁がありませんでした。  今回、津軽を読んで思うのは、太宰のファンだけでなく、私のように太宰を好きとは言いきれない者でも『津軽』は好きにならずにはいられないということです。太宰の魅力である優しさや繊細さ、ユーモアのセンス

          太宰治『津軽』を読む

          今日は神保町の共同書店PASSAGEbis!のカフェへ。bis!の棚主である吉穂みらいさん(みらっちさん)と歓談しました。文学フリマ東京にも『吉穂堂』として出店なさるみらいさんをお手伝いすることに。5/19、文フリ東京でみなさまにお会いしたいです。

          今日は神保町の共同書店PASSAGEbis!のカフェへ。bis!の棚主である吉穂みらいさん(みらっちさん)と歓談しました。文学フリマ東京にも『吉穂堂』として出店なさるみらいさんをお手伝いすることに。5/19、文フリ東京でみなさまにお会いしたいです。

          アカデミー賞雑感

           最近は映画館にまったく行けていないのですが、アメリカのアカデミー賞は気になります。密かに応援していたのは『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』だったのですが……。アレクサンダー・ペイン監督のファンなので。ジョージ・クルーニー主演の『ファミリー・ツリー』やブルース・ダン主演の『ネブラスカ』など、地味で淡々としているけど、琴線に触れる映画を撮る方なんですよね。といっても、今回は監督賞ノミネートはならず、作品賞だけのノミネートだけだったので、次回両方ノミネートの上でW受賞

          アカデミー賞雑感

          2024年2月読書記録 川端、太宰、アメリカ

          オルハン・パムク『雪』(宮下遼訳・ハヤカワepi文庫)  パムクはトルコの作家でノーベル文学賞受賞者です。  ノーベル文学賞をとった作家には去年のヨン・フォッセのように難解な作風の人もいますが、カズオ・イシグロのように読みやすい作家も少なくないです。パムクは、読みやすいタイプの作家だと思います。ミステリー的な要素や恋愛要素もある話なんですね。途中ちょっと中だるみがありますが、導入部とラスト三分の一ほどは続きが気になって一気読みしました(文学作品なので、すべての謎が解き明かさ

          2024年2月読書記録 川端、太宰、アメリカ

          【Bluesky】 フォローなしで楽しめるSNS

           今日はSNSのBlueskyについて少し書いてみます。  Blueskyは2/6に招待制が廃止され、誰でもアカウントを作れるようになりました。Xから移動してきた人もいて、一気に日本語のアカウトや投稿が増えたとのことです。  といっても、Xに比べればまだまだこぢんまりとしていますが、こういう時期のSNSって独特の良さがありますよね。インスタだって初期は美しさと有用性を兼ね添えた投稿が多くて、自分では投稿しなくても十分楽しめました。  Blueskyにも揺籃期から成長期に移る時

          【Bluesky】 フォローなしで楽しめるSNS

          【読書感想文】 川端康成『山の音』

           川端康成の小説を初めて読んだのは小五か小六の時です。当時は、中学受験界にSAPIX(大手の塾です)が参入する前だったので、受験勉強用のメソッドが確立されていなかったんですね。国語は漢字や熟語・慣用句などを暗記して、あとはひたすら名作と言われるものを読むだけでした(私は暗記が嫌いだったので、本を読むだけでしたが)。  川端は『伊豆の踊り子』と『雪国』を読んだはずです。『古都』も読んだかも。小学生には早すぎる内容ですよね。自分や自分の親に似た人たちの話を読むだけでは世界が広がら

          【読書感想文】 川端康成『山の音』