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温泉旅館でジャズを聴く

 「ミッキーマウスは雨男か?」という記事が今日のYahoo!ニュースに出ていました。中身は読んでいないけど、ディズニーリゾートの周年記念日(4月15日)に雨が多いという意味なんでしょうね。
 確かに、4月半ばのこの時期って雨の日が多いですよね。夏を思わせるほど暑い年もあれば、今年のように春らしい日が続く年もある。なのに、気温に関係なく、なぜか雨の日が多い。
 ミッキーの場合は、誕生日(11月18日)も雨が多い季節なので、まさに雨男なのかもしれません。

 先日、伊豆高原に行ってきたのですが、その日もあいにくの雨日和でした。大室山にも行けず、早々と旅館にチェックインしました。

海も寂しげ。

 うちの男たちは温泉が大好きなので、雨でも全く問題ないのですが。大浴場&露天風呂に行ったまま帰って来ません。休憩所にミニビール缶やアイスキャンディーがあったので、それで身体を冷やしながら、何度も入浴しているのでしょう。

 私も温泉は大好きなのですが、長くは入っていられない。一人先に戻って‥‥このまま部屋でグータラしてもいいけど、それだと普段と同じになってしまいます(やれやれ)。ラウンジで何か飲もうかなと考えて館内案内を見たところ、「音楽室」という文字が目にとまりました。古いレコードがあるとのことでした。
 古いレコードがあるなら、バッハのレコードも置いてあるかもしれないと考えて、音楽室に行ってみることにしました。

「『ブランデンブルク』ね?」と彼女は言った。
「好きなの?」
「ええ、大好きよ。いつも聴いてるわ。カール・リヒターのものがいちばん良いと思うけど、これはわりに新しい録音ね。えーと、誰かしら?」
「トレヴァー・ピノック」と私は言った。
「ピノックが好きなの?」
「いや、べつに」と私は言った。「目についたから買ったんだ。でも悪くないよ」 

村上春樹『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』より

 少し前に読んだ村上春樹さんの小説に、こんなシーンがありました。バッハの『ブランデンブルク・コンチェルト』について主人公と図書館の女の子が会話するシーンです。
 私は、昔の小説ばかり読んでいるのに、クラシック音楽はなぜか新しめの演奏で聴くのが好きなんですね。バッハの管弦楽曲も、バッハ・コレギウム・ジャパンという90年代に設立されたオーケストラの演奏で聴くことが多いです。
 といっても、女の子が好きだと言うカール・リヒターの『ブランデンブルグ』はバッハの定番アルバムなので、CDも持っています。でもレコードで聴いたことはないので、音楽室にあれば、普段と違う気分が味わえるかなと思ったのです。


 音楽室はグループで独占できるみたいで、ドアに「使用中」の札をかけるようになっていました。棚に並ぶアルバムを見て、「こんなにあるんだ」と驚いていると、従業員の方が来て、飲み物を勧めて下さいました。好きな音楽を聴きながら、コーヒーも飲めるなんて、贅沢ですね。

 棚に並ぶアルバムは、古いジャズのコレクションでした。
 ジャズには全く詳しくないので、迷いながら見ていくと、アート・ペッパーの『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セレクション』がありました。
 アート・ペッパーは、マイクル・コナリーのミステリ小説で、主人公の元警察官ハリー・ボッシュがこよなく愛するミュージシャンです。コナリーの小説では、ミステリ部分だけでなく、ロサンジェルスという街の描写やジャズについての熱い語りも魅力的なんですね。

 レコードプレイヤーなんて、実家で触って以来なので、ちゃんと針を置けるか不安でしたが、何とかなりました。
 ペッパーたちの演奏も素晴らしい。やっぱりレコードっていいですね。置き場所や針の手入れを考えると、自宅にレコードプレイヤーを買う選択肢はないですが、それだけに一期一会の気持ちで聴くことができました。
 雨のおかげで、思いがけず素敵な非日常を味わうことができました。


 帰宅後ネットで調べたのですが、村上春樹さんのエッセイ集『ポートレイト・イン・ジャズ』にも、アート・ペッパーについての記事があるそうです。5番目の「ストレート・ライフ」が村上さんのおすすめトラック。村上さんの新作を読み終えたら、このエッセイ集を買って、ジャズを聴く第一歩にしたいです。

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