見出し画像

詩 冬の夜の一瞬の

冬の鍋料理には 温まるものですが
温まったからといって
ぬくぬくとしたからといって
それは私だけのこと
また 鍋料理を楽しんだ人たちだけのこと
温まってぬくぬくと できぬ人たちもいるのですが
それはそれとして 白菜を白滝を
水菜をバラ肉をと 菜箸でとりわけて
ひとまずは自分が楽しむことです
ほふほふと口に熱い豆腐
いま殴られた誰かがいることでしょう
ポン酢につけてほぐすタラ
いま殺された誰かがいることでしょう
湯気を立てる私の鍋
見知らぬ誰かの悲劇
それらが相互に なんの因果も関係もないのでしたら
私はただ鍋を食べるだけなのですが
いまこのときの この鍋の外の世界でのことを
まざまざと思い浮かべてしまい
そうしていて ガスボンベの中身がなくなりまして
熱力学の理論上からも 鍋はだんだん冷めてゆき
替えのガスボンベなどないので ただ冷めてゆき
冬は寒いものですなあと つぶやくのですが
寒いだけじゃなく この鍋のごとくに冷えきった
やりきれない物事の数々があるのだと思えば
冬の夜の一瞬の叫びとして
ダレカタスケテアゲテ と
手帳に書きこみました



サポートありがとうございます!助かります。