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読書ノート 「ウエルベック発言集」 ミシェル・ウエルベック 西山雄二他訳

 ウエルベックは現代フランスを代表する作家・詩人。そのスキャンダラスな発言や内容で世間を騒がせるが、その小説は世界的な人気を博している。

 『素粒子』『地図と領土』『プラットフォーム』『ある島の可能性』『服従』など。最新作は『滅ぼす』。私は『ある島の可能性』が好みだが、この本ではスキャンダラスなウエルベックのエッセイやインタヴューがまとめられている。

「ロックダウンのあと、私たちが新世界に目覚めることはあるまい。それは同じ世界、もう少し悪くなった同じ世界なのだ」

「ドナルド・トランプは良い大統領だ」

「アメリカは強国ではあるが、他の強国中の一国である。それはアメリカ人にとって必ずしも悲報ではない。それはアメリカ以外の世界にとって素晴らしい朗報である」

 などのコメントはたしかにまあ刺激的です。


 目に止まっった文章がある。
「混乱へのアプローチ」において、ウエルベックは広告について次のように述べる。

 「広告は恐るべき冷厳たる超自我を、かつて実在したいかなる命令よりも遥かに容赦のない超自我をしつらえる」
 
そして
「この超自我は…繰り返す─『お前は欲望しなければならない。おまえは欲望をそそる存在にならなければならない。お前は競争に、闘争に、この世界での生活に参加しなければならない。止まってしまえば、お前はもう存在しない。遅れたままでいると、お前は死んでしまう』と。」

 「もはや何も言うべきことがない人々のために、広告はコミュニケーションの方法を進化させ続けている。広告は、誰かと交際したいとはもう思わなくなった人々同士の出会いの可能性を容易にし続けている」

 この文章を読んで、私はヴァレリーの次の一文を思い出す。

 「すべての宣伝行為には人間に対する強い軽蔑が含まれており、人間的慈愛の気持ちへの大きな侮蔑がある。というのも私を説得したいと思う人は、否応なしに自分ならしてほしくないだろうことを私にすることになるからだ。彼は私を騙すべき人間として扱う。彼は恐るべき方法と策略を駆使し、感情と理屈を組み合わせ、亡霊を呼び出し、約束と脅しを振りまき、こちらの獣欲的なものと理念的なものを交互に刺激する」

 「演説家が、また他人を自分の側につけようと望む連中が、どのように振る舞うかを見ればいい。『雄弁』とはいったい何だろう。『雄弁』とは、熱気とかイメージ、比喩、リズム、拍子などの力を借りて、それ自体まったく無意味な命題に命を与えることだ。…以上のようなことを私は不純と呼ぶのであって、私はそれに我慢できないし、一種の犯罪だと感じる」
(1930/ポール・ヴァレリー『「パンセ」の一句をめぐる変奏」より)

 

 もともとは中沢新一が引用していた文章です。なんというか、的を得た思考。言い表したかった思いを上手に具現化・言語化したという驚きと賞賛が沸き起こる。94年前に書かれたこのヴァレリーの嘆きと2020年のウエルベックの視点は、ひとを操ろうとするものに対する警告という意味で共闘している。この立ち位置に私もいようと思う。

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