台にアニバーサリー (ショートショート)
出来上がったネジ製品を納品しようとしたら、折り畳み方式の台車にすでに箱が積まれている。形状は立方体で十個ほど。あきらかに俺たちが造ったネジではない。持ち上げてみると意外に軽い。どことなく生クリームとフルーツのにおいもする。食べ物か?
「一体誰のものだろう、このままでは納品に間に合わぬぞ。この箱をおろそう」
そこへ社長夫妻がやってきた。海外に行くような大荷物を持っている。
「皆さん、実は今日は我が工場の記念日です。これは皆さんに差し上げるケーキです」
俺たちは歓声をあげた。
「創業日、今日でしたっけ? 社長からもらえるなんて初めてだ。ケチだと思っていたけどすみません」
「正確には倒産記念品です。ボーナスも退職金も出ませんのでせめてものおわびです。妻の実家のケーキ工場の製品を差し上げます」
「えっ、倒産?」
「妻の実家も一緒に倒産ですからね、賞味期限は今日までですので、お早めに」
社長夫妻は消え、荷台と工員とケーキが残された。
ありがとうございます。