見出し画像

#0109【偉大な思想家を鍛えた母の愛(孟子)】

1日1分歴史小話メールマガジン発行人の李です。
今週は中国の古典思想についての特集です。

まずは儒教の聖典の一つである『孟子(もうし)』を取り上げたいと思います。

この「孟子」という単語には二つの意味があります。
個人への尊称としての「孟子(=孟先生)」と、書物としての「孟子(=孟先生の教えの書)」です。

まず、個人としての孟子について触れたいと思います。
孟子の本名は、「孟軻(もうか)」と言います。孟が姓で、軻が名前です。以降、個人としては孟軻、書物としては孟子とします。

孟軻は幼少期から天才として知られていましたが、その陰には母親の教育方針がありました。父を幼くして亡くしていたので、いわゆる母子家庭です。

母はこの息子を立派な人物へと育てるために教育に力を注ぎます。しかし、彼女自身も働かなければならないため、彼女が在宅して教育を施す時間は限られています。

彼女の不在時に孟軻の教育上、もっとも影響を与えるものは何か?

それは周囲の環境でした。

最初に母子が住んだ土地は、墓場の近くでした。孟軻は葬式ごっこをして遊びます。これは宜しくないと次に市場近くに移り住みます。今度は商人の真似事をします。これでもダメだと引っ越した先は、学校の傍でした。

孟軻は、学生がやっている祭礼や礼儀作法を真似するようになり、母は居を構えること三度目にして、孟軻を育てるに相応しい場所を見つけます。

これが「孟母三遷(もうぼさんせん)」という故事です。子どもの教育には環境が重要であるという意味です。

さて次に孟子に記された思想で重要な点を上げます。二点あります。それは性善説と王道思想です。

人間の本質は何か、孟子では、井戸に落ちそうになっている子どもを見れば、人間は自ずから助けることを引き合いに、「善」であると説きます。

しかし、この性善説は、人間があるがままに行動すれば平和が訪れるといった考え方とは異なります。

あくまでも人間本来に備わった性質が「善」であるだけで、それを悪の道に染まらせずに正しく導くためには「学問」や「礼儀」が必要であると孟子は説いています。

性悪説では、「ルール」や「法」が大切であると説いており、手段は異なりますが、仕組みが必要である点では一致しています。

孟子は、人間の主体的な努力(礼儀作法の徹底)によって社会全体が統治可能だという楽観的な人間中心主義に立ちます。性悪説は外部的な枷(ルール・法による統制)がなければ統治不能と考えており、ここに違いがあります。

ここから、君主は力(覇道)ではなく、道徳(王道)によって人民を教導すべきとの思想に辿り着きます。

当初はこの『孟子』は儒教で重要視されておらず、書物として重きがなされはじめたのは唐の時代(8世紀頃)になってからのことです。その後、10世紀に至って朱子学を起こした朱子によって儒教の本流となったのです。誕生から千年を超えての再評価でした。

孟軻が唱えた性善説や王道思想(力ではなく道徳による支配)は、
理想主義的要素が強く、生前には受け入れられずに不遇の人生を歩みますが、この思想は現代においてまで影響を及ぼしています。

朱子学となった儒教が、中国・朝鮮・日本へ与えた影響はまた別途ご紹介します。

以上、本日の歴史小話でした!

========================
発行人:李東潤(りとんゆん)
連絡先:history.on.demand.seminar@gmail.com     twitter: @1minute_history
主要参考文献等リスト:
https://note.mu/1minute_history/m/m814f305c3ae2
※本メルマガの著作権は李東潤に属しますが、転送・シェア等はご自由に展開頂いて構いません。
※配信登録希望者は、以下URLをご利用ください。 http://mail.os7.biz/b/QTHU
========================

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?