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【読書レポ】文系と理系は思考するときの闘い方が違う

1.文系クラスと理系クラス、どうやって選択した?

高校生になると専攻でクラスが分けられ、大学になるとそれぞれが全然違う世界に見える。大人になって勉強することがなければもう解放された気分になる。―文系か理系か問題。

今回は、文系と理系の違いについて説明したうえで学ぶことと日常生活の関係について述べた本を共有します。

共有する本:「文系?理系?」

2.大前提として

今回は1冊の中の「第1章 何のために勉強するのか」を取り上げます。

志村は、何のために勉強するのかという疑問に「男はつらいよ」の寅さんの発言を引用し、以下のように回答します。

いまの世の中、「常識的な答」はインターネットなどで、誰でも簡単に得ることができますが、「物事の本質を問う」ということは簡単なことではありません。物事の本質が問えるためには、「筋道立てて考えること」が前提になります。情報技術(IT)の発達した社会が求める人材(人財)は「常識的な答えを知っている人間」ではなく「物事の本質を問える人間であることは明らかでしょう。p.28

このように大量の知識を暗記することが勉強の目的なのでなく、論理的に考えるための訓練が勉強の目的になります。しかしながら、文系と理系はこの論理的に考えるために通る道筋と科学の対象が異なります。志村は、文系、を以下のように説明します。

人文科学が対象にするのは人間の精神活動であり、広くは人類の文化です。また、社会科学の対象は人間の生活環境や社会現象です。つまり、文系の科学の対象は個別的であり、時代あるいは地域によって変化し得ますし、そのような“変化”自体が“科学”の重要な対象になるのです。p.29

続けて、理系を以下のように説明します。

自然科学を勉強した「理科系の人」の筋道の基盤は、このような“自然”の事象であり、その理屈を考える自然科学から導かれる宇宙規模で普遍的な自然の摂理なのです。「理科系の人」はきちんと筋道を立てて考えることを、“自然”と自然科学から学ぶのです。したがってそのような“筋道”に忠実である限り、自分の行動を“その時の気分で決める”行動が是認される余地はないのです。pp.31-32

このように、理系と文系では大きく異なる考え方と立場をとります。どちらにしても、論理的に考えることは自分の身を守ることに繋がります。毎日の生活で何かを選択する際に、騙されたり踊らされたりすることなく冷静に検討する力を論理的思考が支えます。

そして志村は、なぜ勉強しなければいけないのかに答え、勉強する面白さを説明したうえで、以下のように考える原動力について述べます。

つまり、問題は「その人間が“重要な現象”に眼を留められるかどうか」であり「注意を惹かれるかどうか」なのです。また、「その“現象”を重要と思えるかどうか」なのです。また、「その“現象”を重要と思えるかどうか」なのです。さらには「知的欲求を持続する」ためには、まず「持続」以前に、「知的欲求を持てること」、「強い関心が生じて来ること」が必要です。p.45


3.文系出身と理系出身の対立

これは著者が工学出身の人なため、全体的に理系の話がメインになります。そして、この理系に対する文系という流れで話が進むため内容に偏りを感じます。自然科学分野だけだは不十分なので人文科学の視点も両方必要ですよ、という主張は大いに同意できます。さらに理系領域が苦手、不得意で避けてきた文系の人を読者に想定しているような雰囲気です。そのため、理系の人が読むと面白みは薄いのかもしれません。

わたしは、文系領域で長い間学んできました。そこで感じるのは、理系の人はあまりに文系のことを知らなさすぎるということです。反対に、わたしも理系のことを知らなさすぎると感じます。知らないから、自分はどの立場からどのように問いに対して考えていくのかということを理解している人は、少ないのではと感じます。自分の訓練された領域のやり方が当たり前で、他を知らないから、文系の課題に対していきなり理系のやり方でマウントしたり、理系に対する文系の仕事に気づかなくて自信をなくしたりといった人が登場するのではないでしょうか。

わたしは、文系は人間が書いたり作ったりしたものを対象に、理系は人間が作っていない、コントロールできない自然を対象にしていると認識しています。難しいのは、これは対象をどう捉えてどのように考えていくかという問題です。同じ対象物でも文系と理系は異なる結論を出すことは少なくありません。例えば、ある個人を「人間」だと捉えたら文系っぽい発想になりますし、「ヒト(動物)」だと捉えたら理系っぽい発想になります。他には、社会科学は統計が大事になってくるので文系だけど理系寄りのようなグラデーションになる領域も存在することです。大事なのは、自分がどこの立場から考えているのかという説明を怠らないことだと思います。

この話は、時間あるときにもっと共有したい話題だと考えています。

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参考・参照文献:志村文夫『文系?理系?人生を豊かにするヒント』筑摩書房、2009年、pp.24-51

わたしの研究遍歴については以下の記事で共有してます。


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