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❽3人目の男

バイト先で知り合った関西人と、なんとなく近づく機会があって、それからしばらく会うようになっていた。私がまだ彼氏と付き合っていた頃、別れろとは決して言わなかったし、私を束縛する素振りもなかった。むしろ私が人のものであることを楽しんでいるようにさえ見えた貴方。

そして、そもそも…
私たちの関係には何一つ約束したことなんて無かった。私は貴方のものではなかったし、貴方も私のものではなかった。

貴方を好きな気持ちも強くなりすぎるとただ寂しくて、会えない時間や、曖昧な関係が辛くなってくる。
貴方と一緒にいる時の絶大な幸福感。
その反動でやってくる絶望的な喪失感。
このふたつの感情を行ったり来たりしながら、徐々に欠如していく倫理観。

好き。
貴方が好き。
ここに居て。

なんで居ないの?
1人は嫌だ。
寂しいよ。

誰か、助けて…。

貴方が埋めてくれない穴を私はどうすることも出来なくて、ただ、優しくしてくれるその男に埋めてもらっていた。

でも、結局、貴方じゃなくちゃ埋まらない。

そんなこと、分かり切っているのに、私はただ、
寂しさを埋めた。


他の人に抱かれたことを伝えたら、貴方は急に黙り込んで、しばらく考えて、私たちにはあまり縁のなかったファミレスで、重たそうに口を開いた。
その空気があまりにも重いから、あぁ、これで貴方を失うことになるんだなぁと、考え始めたときに貴方の口から出た言葉は、

「つきあいましようか」だったんだ。
そうすれば、もう他の人としないですよね。
とつけ加えて…。

この日、貴方との契約が成立した。

貴方が私に、怒りに近い感情を見せたのは、唯一、この時だけだったと思う。


だけど私も貴方も、結局は契約違反を繰り返していたよね。お互いに必要な存在だったのに、そんなこと全然信じられなくて、無条件に自分に好意を寄せてくれる人のもとで安らいでいたんだ。
貴方との恋はあまりにも激情で二人だけの世界では、息ができなくなってしまうから。

だから、私と貴方の間には、
約束も契約も、無意味だったんだ。



だけどね、今はたまに思うよ。
あのまま二人で窒息してしまえば良かった──と。

読んでくださるだけで嬉しいので何も求めておりません( ˘ᵕ˘ )