見出し画像

テキスト『マジックワードと呪い』

ああ、アイスが最適解だった。
コンビニの安いホットスナックを食べても満たされるものなんかタカが知れてる。
そんなことわかっていたのに、入り口入ってすぐのショーケースに入ってるから買ってしまった。
ああ、ほんとうにアイスが最適解だったと入り口の前でレジ袋をぶら下げた私は思ってしまっている。

街灯の薄明かりに照らされた向かいの緑道には、あじさいが咲いているのが確認できた。
明日から梅雨が始まるらしい。
今年も雨がたくさん降る。
この街にも、国にも、私にも。必ず。
今年はどことなく、良い長靴がなければ無理だと思っている。
私が一番良いと思える長靴を探す時間が、あとひと月は欲しいな。
傘は何でもいいかも。本当は、少し柄が可愛いの欲しいけど。
でも、長靴ほどではないか。

私には結婚願望がある。もちろん子どもも産みたい。
あじさいで思い出したけど、人の名前に、季節の名前が付けられるのはすごいこの国っぽいなって思う。「歳時記〜」って思える。

夜、道を歩きながら、こんなことを考えている。
イヤホンを耳に入れて、少し遠回りをしながら。
こんな時間、本気でやれば何でもできそうに思えてくるから不思議。

駅で中学の同級生っぽい人がいて、すごく綺麗で、でも大人びていて、この大人びているという意味は、あの頃の面影とは全然違くて、一人の大人と認識しつつも同級生かもという二面性に対して、大人「びている」と言っている。
すなわち、自分ももう大人?
でも大丈夫、本気出せば、なんでもできるから。
なんでも出来るはず。

ディズニー映画の好きなシーンが、最初のシンデレラ城にディズニーのロゴが現れて、そこからうまく作品の世界に没入していくところ。それみたいな感じで、そう、今は、なんでも出来る気がしている。

あそこに見える、緑色の光を放つ、あの大きな建物はいつも私の心を救っている。さながらそれはメッカであって、私にとっては芸術である。大きな布が垂れ下がっていて、その隙間から光が漏れている。放射しているのではなくて、ほの明るい感じ。時々金属音が聞こえる。不規則だからあれは人間が鳴らしていると思う。誰かが何かをしている。それだけで救われているのかもしれない。
イヤホンから流れている音楽と、うまい感じに重なって、ひとつの楽章になったような気がした。
あれ、今飛ばした曲のあのリフ、なんかのドラマのタイアップ曲にも使われてなかったっけ。

あー、髪を切りたい。

バイト先のあいつも、母も、今日就活でグループが一緒だったあいつも、全員、嘘をついているような気がしている。根拠としては、綺麗なことだけ願望だけを垂れ流しているだけで、もっと違うだろって思う。なんか、それっぽいことを言って自分を鼓舞しているように錯覚しているだけで、何にも成し遂げてなんかいなくて、ただそこにお前や私がいるだけ。じゃないの?

だから、威勢は意地は宣言は、どこに消えた?

こないだね、お前は一生幸せにならないと言われた。
なれない、じゃなくて、ならない?
能動的なの?
望んで、なろうとしてないってこと?
私が?
そんなこと、ある?

あ、友達が3Pしたらしいよ。

ケーキのろうそくから、黒い煙が上がってくるみたいに、ふさわしくない感じがあちこちから立ち込める。

いつ飲まないか?
は?
どうでも良いし。

ほんっとうに、アイスが最適解だったなぁ。

お読みいただきありがとうございました。