見出し画像

鑑賞ログ『理想郷』

231207

イヤミス映画が観たくて鑑賞。ビジュアルも良い。『フレンチアルプスで起きたこと』みたいな雰囲気を嗅ぎ取って行ったけれど、ちょっと違ってた。こっちの方が分かりやすかった。両方いいけどね。

スペイン・ガリシア地方を舞台に、フランスから移住してきた夫婦と、元々の住人、特に隣人兄弟との確執を描くサスペンス。
無農薬の野菜を栽培して市場で売ることで生計を立てている主人公夫婦。問題は近所に住む独身の兄弟。兄は50代、弟は40代半ば。その兄は仕事が終わると弟を含めた仲間と近所の飲み屋で、自らのウダツが上がらないことを嘆いている。全ては、村に利益をもたらすはずの開発計画が、反対派のせいで進まなかったことが原因だと。
10戸に満たないコミュニティの中で分かれた賛成派と反対派。主人公は反対派だったのだ。
”理想郷”だと思ったこの地で、異分子の主人公夫婦。一体何が起こるのか…という話。

物語の舞台は、いわゆる観光地ではなく、広がるのは田舎の風景。それを”何もない”と嘆くのか、”美点”と捉えるのか。嘆く元々の住民と、惹かれる移住者。この構造って日本にもある。実際、私の身近にもある。
相互理解が必要だよね、協力が必要だよね、という建前は分かるけれど、相手が話が通じなかったら?協調することに相手が興味がなかったら?実際、人のことを踏み躙ることに喜びを感じる人もいるしな。

主人公はなんとか分かり合いたいと思うけれど、それは拒否される。でも、相手から見れば、元教師で、夫婦で、フランス人の移住者。たいそうな裕福さを感じるわけではないけれど、仕事終わりに夫婦でワインを飲んで、無農薬でトマトとかの野菜を作って市場でそれを売っているときたら…。うーん、劣等感を刺激するよね。こっちは嫁もいなくて働き詰めなのに。しかもあいつらのせいで期待した村の開発も進まない。
その気持ちも分かる気がする。
元教師の主人公たちがそれに気づかないハズはないと思うんだけど、やっぱり自分のこととなると冷静さを失いがちだよね。分かる。

ずっと不穏。そこから急に叩き落とされるんだが、叩き落とされ方がドライでよい。そして物語の視点が夫から妻に変わり、ミステリーになっていく。
途中で妻が兄弟の母に語る「女しかいなくなるの」という言葉も重い。
最後の終わり方が救いなのかどうか…というざらりとしたところが好き。

そして、これが実際あった話なんだということを知ってびっくり。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?