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「トライアングル」その8

連載ファンタジー小説     
       わたしはだれ?    
         

    第二一章  レリーフの秘密
 
二日目は南西と北東を、そして三日目は午前中いっぱいかけて残る北西の箇所を調べてみたが、鷲の模様は見つからない。
そこで一旦休憩することになり、みな建物の影にすわりこんだ。
だれもが疲れきった表情で、持ってきたパンを食べている。
 
「どうして見つからないんだろう?ねえアルド、鷲がついているものが、もしかしたら暴動の時に壊されたか、盗まれたかしたんじゃないのかい?」
 
 ばぁばがいうと、アルドは首を横にふった。
 
「いや、そんなはずはない。もし仮に盗んだとしても外に持ち出すことはできないし、おれたちは街中に散らばっていたガラクタも一つ一つ調べたんだ」
 
「じゃあ羽を広げた鷲はどこにいるんだろうねぇ?」
 
 ばぁばがため息をついたとき、サラダッテがいった。
 
「私、もう一度あの塔を調べてみたいの」
 
「塔って、あの風聴塔のことかい?」
 
「そう。あの建物の造りが、なんだか気になるのよ

「ふ・・・ん、またふりだしにもどるってわけだけど、どうする?」
 
 ばぁばが、アルドにきいた。
 
「まだ時間はあるから、そっちのばあさんの気がすむようにしてやれよ」
 
 そこで風聴塔にもどったサラダッテは、上の階から壁に彫られたレリーフをひとつひとつ手でなぞりながら丹念に調べ始めた。
そのサラダッテが、三階と二階を調べ終えて一階におりてきた。
 
「この階の鷲は、どれも花の咲くツタにとまっているけど、これって何の植物なのかしら?」
 
サラダッテはレリーフを眺めながら、壁にそってゆっくりと歩いていた。
 
「ずいぶん花を咲かせてるわねぇ、花びらが五枚、形はたてなが・・・、あらっ?あらあら?」
 
 この声で、とっくに謎をとくのをあきらめ、階段に腰かけてうつらうつら居眠りをしていたトンデンじいさんが顔をあげた。
 
「おいおいどうしたんだ?」
 
「これを見てちょうだい」
 
トンデンじいさんは、サラダッテが指さした壁を見た。
 
「なんだよ、ほかのと同じ翼を閉じた鷲じゃないか」
 
「ちがうのよ。見て、ほらここ。この鷲がとまっているツタにだけ花がついていないのよ」 
 
「ああ、たしかに花はないけど・・・」
 
トンデンじいさんは、サラダッテが指さしていた壁をさわってみた。
 
「あっ、ちょっとまてよ」
 
 トンデンじいさんは、別のレリーフも次々とさわってみた。
 
「おいっサラダッテ。花がついてないツタの模様だけ溝が深いぞ。これってなんかの仕掛けじゃないのか?」
 
 トンデンじいさんは、その蔓のレリーフを何度も手でなぞっていた。
 
「鷲が翼を広げるとき・・・広げる・・・飛び立つ・・・、あっ、そうか!わかった、わかったぞ。おいサラダッテ、サスーラたちを呼んできてくれ」
 
 トンデンじいさんに大声でいわれ、サラダッテはあわてて外にいるばぁばたちを呼んだ。
 
「どうしたんだい?」
 
みんながトンデンじいさんの周りに集まってきた。
 
「いいか、よく見てくれ。鷲の両側にそうようにツタの模様があるだろ?さわるとわかるけど、このツタは深い溝になってるんだ。で、鷲の閉じた羽の先は、このツタの上にある。だったら、この溝にそって鷲の羽が上にあがるんじゃないのか?」
「羽を上にあげる?」
 
 カンタンは、トンデンじいさんがいってる意味がわからなかった。
 
「ああくそっ、わかんないのか?溝に沿って羽を押し上げれば、羽は広がるんだよ」
 
「そう、きっとそうよ。すごいわ、トンデンじいさん」
 
興奮したサラダッテにパンパン叩かれながら、トンデンじいさんは右の羽を持ち上げようとした。けれども石の羽は、びくともしない。
 
「どけ、おれがやる」
 
アルドが満身の力をこめて押し上げると、ギッギギッーと鈍い音をたてて溝にそって羽が持ち上がってきた。
 
「そっちも持ち上げてくれ」
 
もう一方の羽をカンタンが押し上げると、こちらもギギッーと音をたてながら鷲は少しずつ翼を広げていった。
そして鷲が、大きく翼を開いたその瞬間、ガタンと大きな音がして足元が揺れ、それと同時にズッズズーッと音をたてながら三方の窓の壁が床と天井に組み込まれていった。
 
「壁から離れろ!」
 
アルドが大声で叫んだ。
立っていられないほどの激しい揺れの中、壁が組み込まれていく。
やがてその揺れがおさまると、風聴塔は、鷲のレリーフが彫られた壁はなくなり、三方を支える太い柱だけとなっていたのだ。
 
「おいおい、どうなったんだ?おれは死ぬかと思ったぜ」
 
カンタンが早口でわめきたてている。
 
「謎の一つが解けただけだ。こんなことでいちいち命を落としていたら次に進めないぞ。
次は、風を聴く者は花の上に立ち 耳をすます、だな。これはどう思う?ばあさん」
 
アルドは、ばぁばとサラダッテに向かってきいた。
 
「花っていっても壁に彫ってあった花はなくなってしまったし・・・、フラリアにはどこにも花は咲いてないないし・・・」
 
サラダッテが困りきった声で呟いた。
 
「風を聴く者は 花の上に立ち耳をすませ。
壁がなくなると、風が自由に吹き抜けるし、風の声もききやすくなるわ。ねえばぁば、ここは風聴塔なんでしょ?だったら、花の上に立ちっていう、その花の場所は絶対ここだと思うの」
 
 フレイはそういったあと、すぐに顔をくもらせた。
これを見て、アルドはすぐに叫んだ。
 
「あいつがく。すぐにもどるぞ」
 
誰もがすぐにランダムに分乗して、猛スピードで洞窟にもどっていった。
 
「あいつがくる時間が、どんどん早くなってる」
 
 洞窟のすぐ外でうなり声をあげている風の声をききながら、ブレンドが呟いた。
 
「くそっ、このままいくと日中でも、外に出られなくなるかもしれないぞ」
 
 ハメドが火かき棒で力いっぱい炉の中をつついたので、火花がパッと立ち上がった。
 
「わたしらに、残された時間はすくないってことだね。だったら急がないと・・・。明日は、朝一番に出るからね」
 
 ばぁばのことばどおり、その夜は早めに寝て、次の日は朝日が昇ると同時に風聴塔に出発した。
 
「花が隠れるっていってもよぉ、ここに残ってるのは柱と床と階段だけだぜ」
 
「だったら柱の上には立てないから、床か階段を探せばいいのよ。簡単でしょ?」
 
 サラダッテのことばにトンデンじいさんは肩をすくめたが、今は、謎をとく可能性があるものを試すしかない。
まず砂をとりのぞいてから、次に這うようにして、花が隠れていないか床石一枚一枚を調べ始めていった。
けれども一階の床にも、二階の床にも、そしてそれぞれの階に通じる階段にも花らしきものはない。
 
ここで固いパンと水の簡単な食事をとる短い休憩のあと、また床をはって花を探す作業が始まった。
 
「次は三階だよ」
 
風と砂ですっかり擦り切れてしまった石の床を調べていくのは、根気がいる作業だ。
これをだれよりも丁寧にしていたシラードが、中央の石をなぞるようにしてさわっていると、なにか模様らしきものがあることに気がついた。
シラードが服の袖で細かい砂をふきとる。すると、すりきれてほとんど消えかかっているけれども、そこにはブルーフェアリーの花が彫ってあったのだ。
 
「あった!これだ」
 
すぐにフレイは、この石の上に立ってみた。けれどもその時きこえてきたのは、あの恐ろしい風の声だったのだ。
フレイが悲鳴をあげるより先に、アルドはその表情を読み取った。
 
「風が来る、すぐに出発だ」
 
きのうと同じようにそれぞれランダムに分乗し、アルドたちは、また猛スピードで洞窟に向かった。
間一髪で唸りをあげる風をかわし、洞窟の扉を閉めると、その扉一枚挟んだむこうでギャァァーと叫ぶ風が、怒り狂うように吹く音がしていた。
 
「あんな風とは早くおさらばしたいよ」
 
両手で耳をふさぎながらふるえているフレイを見ながら、シラードがつぶやいた。
 
「こんなのはじきに終わるさ。暗号だって、少しづつ解けてるじゃないか。あの風がいったら、夕飯の支度をしてあげるよ。きのう、ハメドが飛行船から食料を運んできてくれたから、とびっきりのごちそうができるからね」
 
ばぁばは、シラードの肩をやさしくなでた。
 
 
 
 
   第二二章 大なるトライアングル
 
ばぁばとサラダッテが作った料理がきれいになくなると、長フォラードの詞を書いた紙がまた広げられた。
 
「大なるトライアングルは 小なるトライアングルに光を与えよ。ふーん。トライアングル・・・、三角・・・、これには何か意味があるのかい?」
 
「トライアングルはフラリアの紋章で、三人の長たちを現してるんだ」
 
ばぁばの問いに、アルドが答えた。
 
「この紋章は、どこについてるんだ?」
 
こんどはカンタンがきいた。
 
「教会と交易人の塔、それと長タッカードたちが仕事をしていた塔にもついていた」
「人家にはついてないのね?」
 
「ああ、この三つの塔だけにトライアングルの紋章が彫られている」
 
「三つの塔・・・だけね」
 
「違うね、もう一つある」
 
サラダッテとアルドの会話にカンタンが割り込んできた。
 
「紋章じゃあないけど、おれはたちが今日行った風聴塔、あれもトライアングルの形だろ?」
 
「ああ、そうだった。あれもトライアングルだわ。トライアングルが四つ。大なるトライアングル、小なるトライアングル、光を与えよ、一体どうやって?ああ、わからない」
 
 サラダッテが頭を抱えこんで考えている横で、ばぁばは
 
「トライアングル、トライアングル・・・、三角・・・」
 
と呪文のように唱えながら、紙にいくつもの三角形を書いていた。
その紙を、トンデンじいさんがひょいとのぞきこんだ。
 
「へぇ、大きい三角の中に小さい三角か」
 
トンデンじいさんのひとりごとに、ばぁばがぱっと顔をあげた。
 
「大きい三角の中に小さい三角?ひょっとして・・・アルド、フラリアの地図はあるかい?」
 
せっぱつまったばあばの声に何かを感じたアルドは、急いでフラリアの地図を取り出した。
 
「教会は、どこに建っているんだい?」
 
ばぁばがきいた。
 
「ここだ」
 
アルドが指さしたところに、ばぁばは赤で印をつけた。
 
「じゃあ、交易人の塔と長フォラードたちが仕事をしていた塔の位置は?」
 
続いて指さした箇所に、ばあばはまた赤い印をつけた。
 
「ふーん、やっぱりねえ」
 
「なにがやっぱりなんだ?一人でニヤついてないで、おれたちにも教えろよ」
 
トンデンじいさんが、じれったそうにいった。
 
「ふふふ、まあ見てごらん」
 
そういって、ばぁばは赤い印をつけたところを線で結ぶと、フレイが驚いて叫んだ。
 
「三角形だわ」
 
「で、ここに風聴塔が建ってるんじゃないかい?」
 
ばぁばが地図の一点を指さすと、アルドはその位置を見てうなずいた。
 
「ここに三角形の形をした風聴塔がある」
 
ばぁばは、指さした所に小さな三角を書きこむと、地図の上に、大きな三角と小さな三角が現れた。
 
「それが大なるトライアングルと小なるトライアングルになるんだな?」
 
アルドが、念をおすようにききなおした。
 
「そうだよ。けどねえ、その大なるトライアングルが、どうやってこのまん中に建つ小なるトライアングルに光を与えるのかはわらないんだよ」
「なあ、三つの大なるトライアングルは、高さは同じか?それともばらばらな
のか?」
 
今度はカンタンがきくと、アルドはほかの三人を見た。
 
「ぼく、教会の一番上にある鐘楼で鐘を鳴らしたことがあるんですが、そこから街を見たら、たしかほかの二つもみんな同じ高さでしたよ」
 
シラードが答えると、またカンタンが質問した。
 
「じゃあ、この風聴塔の高さはどうなんだ?」
 
「この三つよりは低いです」
 
「あの詞には、光を与えよって書いてあったよな?大なるトライアングルの三つの塔が、小なるトライアングルより高いんだったら、高いところから低いところに光をあてることができるんじゃないか?」
 
「ああそうですよ。上からあてればいいんですよね」
 
「けどよぉ、上から光をどうやってあてるんだ?」
 
トンデンじいさんが、カンタンとシラードの会話をさえぎった。
 
「えーっと、それはだな・・・、ちぇっ、おれがわかるわけないだろ」
 
「この三つの建物の形は?」
 
「円筒形だ」
 
今度は、サラダッテとアルドが話し始めた。
 
「屋上はどうなってるの?」
 
「塔の上がどうなってるかは、わからない」
 
「じゃあ、詞にはブルーフェアリーの花開く時とあるけど、この花が開く時間ってわかる?」
 
「ブルーフェアリーは、いつも太陽が真上にくると花が開いた」
 
「そういえば、私の温室で咲いたときもお昼だったわ」
 
アルドは、サラダッテとの会話がどこに向かっているのか皆目見当もつかなかった。
 
「ねえサスーラ、さっきカンタンがいったように、三つの塔の上には真上からくる太陽の光を集める仕掛けがあって、それが風聴塔に光を入れるのだと思うの。
もちろん塔の上がどうなっているのかわからないから仮設なんだけど、どう思う?」
 
「うーん、こればっかりは三つの塔の上に行ってみないとわからないねえ。
とにかく明日は、ランダムで三つの塔に行ってみてから、もう一度風聴塔も調べる必要があるね」
 
「よーし、明日は絶対おれがその仕掛けを見つけてやるぞ」
 
 カンタンは、その場にいるだれよりも張り切ってた。
 
 
 




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