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テレビについて⑫ドラマ「イチケイのカラス」に、実在のモデルがいたと知り、勇気づけられた話。

 刑事ドラマ、医療系、法廷、レストラン。そうした場所が舞台になるドラマは、妻が好きなので、「イチケイのカラス」が始まる時には、妻にススメて、やや渋い反応だったのだけど、実際に見始めたら、今のところ、毎回、一回につき、何度か泣きながら見ているので、良かったという気持ちもある。

 ただ、あんまり寝る前だと気持ちが揺さぶられ、よく眠れなくなる、ということらしいので、見るタイミングは、考える。

 例えば社会のすみに生きている私のような人間が、もしも、法廷に立つようなことがあれば、こういう裁判官がいてくれれば、と思えるような人物がドラマには出てくる。

 その一方で、これはフィクションだから、というのと、確か、裁判にかけられた時点で99%有罪になるという、考えたら、とても怖い制度の中に生きているのは、少しは知っているつもりだったから、これは、あくまでも理想なのだろうと思っていた。だから、ドラマ展開とは別に、そんな冷めた気持ちにもなっていた。

実在した裁判官

 この本には何人もの、「本来ならば、その分野の王道を歩むはずだったのに、時代の流れのせいで、異端にならざるを得ない人たち」が登場する。その中に、弁護士が登場していて、なんの知識もなかったので、プロフィールから読み始める。木谷明という人だった。

 検察の意向に追随してばかりの判事が大多数を占めるなか、木谷は徹底して冷静な目でそれと対峙し、しかも飛び抜けて優秀だった。現役判事時代に書いた無罪判決は30件以上。検察が控訴できたのはわずか1件にすぎず、その1件を含めてすべての無罪判決が確定している。
 検察が起訴した際の有罪率が99・9%近いとされるこの国の刑事裁判で、これは脅威の数値である。いや、司法権の砦として検察権力の行使をチェックすべき裁判の役割を考えたとき、本来は木谷のほうが判事としてのありようの基本でなければならず、同じような判事がせめて10人いれば、この国の刑事司法はもう少しまともな姿になっていたに違いないと思う。

 無罪判決30件、という数字を見て、この人が「イチケイのカラス」のモデルで、本当にいた人だったんだ、と思った。

 インタビューを読むと、確かに、そういう人だった、と思えるもので、ドラマはかなりその姿勢を再現しているようにも思えて、何より、そういう人がいて、今も弁護士をしている、ということに、勝手に希望が持てた。

 それは、とても困難なことだと思うけれど、大勢の流れがあったとしても、仕事として、真っ当な姿勢を貫くことも可能なのだ、と思えたからだった。

 それでも、現実の厳しさを感じたのは、この木谷氏が、飛び抜けて優秀だった、ということだ。大勢の流れが間違っていても、そこに乗らずに、きちんと真っ当なことをするには、能力がいる、という事実も改めて知らされたようにも思えたからだ。

 それでも、こんな人がいた。ということは、この人の存在は有名らしいので、自分の無知が恥ずかしいとしても、やはりフィクションだけではないことで、少し明るい気持ちになれたのも事実だった。

「イチケイのカラス」の原作

 原作は漫画で、そして、この作者自身が、モデルの一人は、木谷氏だと公言し、インタビューまで行っているらしいことも知る。

 自分自身が、本当にいろんなことを知らない。

 それを確認して、ちょっとぐったりする思いもあるけれど、それよりも、実在した、ということへの希望と、こうしたテーマでドラマになり、これをモデルとして、本当に裁判官を目指す優秀な子供達が出てきて、それこそ、そうした判事が「10人いれば」(前出「時代の異端者たち」より)という状況になれば、日本の刑事司法が変わるのかもしれない、とも思う。

 けれど、組織の怖さを思うと、それを目指すのは大変だろうし、と考えながらも、だけど、モデルとなる人物像が明確になる、というのは、やっぱり意味があるとも思う。

木谷氏へのインタビュー

 さらに、ドラマが始まって、木谷氏にインタビューまで行われていた。
 それによると、ドラマの内容は、そんなに実情と違わないらしい。

 そして、この記事を読んで、再び、微妙にがっかりしたのは、このドラマの上司と部下のコンビである、どちらも真っ当な判事のモデルが、同一人物だったらしいこと。

 実際の司法の世界では、木谷氏のような人がいても、そのあとに続く人がいなかった、ということなのだろうか、と思うと、やっぱり微妙に暗くなる。


 それでも、世の中には、まともな道はあって、それは実は自分にも関係があって、毎日の小さな選択や、覚悟みたいなものを積み重ねる、ということで、その道を進める可能性はある。だから、仕事の本来の目的みたいなものを、どうしたら見失わないだろうか、といった、青臭そうでも、基本的なところを、改めてやっていこう、とは思えた。

 モデルになる人が実在すると知って、ドラマの見え方も少し変わってきたような気もする。これからも、見続けると思います。




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