宇多田ヒカル 『BADモード』………「冷静な覚醒」を促す音楽。
すみませんが、宇多田ヒカルの音楽については、少し遠回りします。
時間がない方は、お手数ですが、『君に夢中』から、読んでいただければ、と思います。
リズムについて
コロナ禍の前、音楽に関するトークイベントで、imdkm氏という音楽ライターの存在を知った。
失礼ながら、それまで全く知らず、この名前を「いみじくも」と呼ぶことすら分からなかった。
ただ、その人のリズムという視点からの音楽に関する話は、とても新鮮で、しかも幅が広くフェアな見方で、三浦大知がどうすごいのか。もしくはディーン・フジオカの音楽の試みについても話をしてくれ、その後、少し音楽の聴き方が変わったような気もしている。
そして、書籍も読んだ。
私は、楽曲を聞いて、ベースの音が分からない程度の耳しかないけれど、それでも、とても興味深く、ここに挙げられている音楽を聴きたくなった。
宇多田ヒカル
宇多田ヒカルの楽曲を全く聞いたことがない人は、この日本に住んでいないのではないか、と思うくらいメジャーな音楽家だと思う。
だけど、個人的には、宇多田ヒカルの若い頃の「第一期」は、その発言に異様な鋭さを感じたり、音楽バラエティーに出演したときの、「失礼さを感じさせないタメ口の絶妙な使い方」で知性が伝わってきたが、その楽曲に関しては、もちろん聞いたことはあるけれど、それほど強い興味が持てなかった。
それが、とても勝手なことなのだけど、「人間活動」のための休止期間の後の、宇多田ヒカルの音楽は、素直にすごいと思っていた。
復帰後の第1作「Fantôme」はラッパーの「KOHH」ともコラボレーションしていたり、新しさとも自然に共存しているように思えたのだけど、それでも、このアルバム全体が、追悼のようにも感じられ、個人的なことが、これだけ広く伝わることに、どこか驚きも感じていた。
ラジオ番組
それから、また、年月が経って、ラジオで、宇多田ヒカルの話をしている人がいた。
それは、「imdkm」氏だった。
番組の中で、特に「Fantôme」以降のリズムは、独特であり、それ何?というレベルになっていながら、繊細。違和感を目指しているようだ。でも、実は、最初のアルバムくらいから、その傾向があり、今も発見がある。
「imdkm」氏は、そんな話をしていた。(番組を聞いてメモをしていたので、詳細の違いはご了承ください)。
その評価の仕方が、とても興味をひかれるもので、それに背中を押された。
今度の新作「BADモード」は気になっていたので、予約購入をすることにした。まだデータだと不安なので、初回生産限定版(特典なし)を予約した。
音楽にそれほどの強い興味もなかったし、ダウンロードして購入することはなかったし、形で欲しい世代と言っても、CD自体もしばらく買っていなかった。
君に夢中
このドラマは、途中から見たので、何かを語る資格はないとしても、画面にずっと不穏さと緊張感があり、時々、すごく新鮮なアングルでの映像もあった。
ほとんど大声を出さない刑事が主演だったりもしていたので、こうしたドラマのスタイルを更新するという意味では、21世紀の「ケイゾク」なのかもしれないと思っていた。
「最愛」の終盤に流れるのが宇多田ヒカルの「君に夢中」だった。
イントロから、画面の不穏さをさらに高めるような響きとリズムが聞こえてくると、そこに「君に夢中」という宇多田ヒカルの声が重なる。この言葉は、ポップソングの中で、何万回と使われてきたはずだけど、こんなに不吉に聞こえてきた記憶はなかった。
すごいことだと思った。
この音楽が、このドラマの印象をさらに強めていた。
「BADモード」 冷静な覚醒を促す音楽
注文していた「BADモード」が届いた。
パッケージもミニマムで、シャープだった。
中には、ポストカードのような写真が入っていて、そこには宇多田ヒカルが写っていて、そして、その裏が歌詞カードになっていた。
14曲。
「シン・エヴァンゲリオン」を映画館で見たときに流れていた曲も入っているし、すでにドラマで聞いていた曲も複数含まれていて、耳なじみもあったと思うが、それよりも、ずっと微妙な緊張感が途切れない感じがあった。
最後の曲には、一瞬、故障したかと思うような音の途切れのようなアレンジまである。
絶対に明るい未来はない。
その現実を改めてはっきりと気づかされてくれるような気持ちになった。
その上で、その明るくない厳しい現実を踏まえた上で、それでも生き残れるような準備をした方がいい。
そんな気持ちになった。
気持ちが明るくなることはない。かといって、暗い時に聞いて、共感してくれるような響きでもない。
日常で聞いて、そして、ずっと微妙に、緊張をさせられているような、だけど、それが少し気持ちがいいような、そんな音楽に感じた。
妻は、作業をするときに、とてもいい、と言っていたが、それも納得できる気がした。
ずっと冷静な覚醒を促されているような感覚が続くからだった。
すごい人だ。
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