テレビについて(58)「ふかわりょうに一票」-----TOKYO MX 『バラいろダンディ』
あまり計算が行き届いていない方が、視聴者にとっては面白い場面に出会えることがある。
「偏愛さん」
この時も、他の番組がそれほど面白いと思えなくて、「TOKYO MX」にセッティングしたら、『バラいろダンディ』をやっていた。
ついこの前は、橋本マナミの、芸能人にとっての特別の境界線↑を、この番組で知ったので、ついそのまま見ていたら、やはり、自分にとっては、見たことのないコーナーが始まった。
それは「偏愛さん」というネーミングがされていた。
世の中のマニア、というよりも、もう一歩進んで、かなり強めの「〇〇オタク」という人たちは、あちこちの番組で見ていて、場合によっては、複数の番組で見かけることもあって、こうした「ちょっと変わった趣味や嗜好を持つ人」も、ある種の「珍獣」として扱われているように見えることもあった。
それは、あまりいい気持ちがしない時もあったのだけど、元々、テレビというメディアには、そういうところがあるし、こうやって、それを喜ぶような視聴者がいて成り立っているのだから、そ偉そうに責めたりはできない。
同時に、こうして「マニアックな人たち」は、これまででは考えられないほど、さまざまな人を、テレビなどで知るようになったから、それほどの驚きを感じることも少なくなったし、この「偏愛さん」の時も、それほどの期待はしていなかった。
「体脂肪を減らすシール」
最初は、女性が出てきて、淡々と街中で何かを探し始める映像から始まったと思う。
ただ、その目的とするものを見つけた時は、明らかにテンションが上がったのがわかったのだけど、そこに映る映像を見て、視聴者としては、最初は、何かがわからなかった。
それはペットボトルを購入すると、その本体についているシールで、街中の壁やポールなどに貼られている姿だった。
それも、「お〜いお茶 濃いお茶」に貼られている「実は!体脂肪を減らす」のシールだけに、今回の「偏愛さん」は興味があるらしい。
確かに、ペットボトルなどに貼られているシールは、飲むときに邪魔で、ペットボトル本体に貼ったりしていることもあるが、こうして、すぐに街中のあちこちに貼り付ける人がいることを改めて知った。ペットボトルを捨てるゴミ箱や、何かの金網などにもあった。
その女性は、そのシールを集めているというのではなく、そのシールが貼られている姿を見て、いろいろと想像するところまでが「偏愛」のセットになっているようだ。
例えば、コンビニのすぐ外のガードレールのような場所に貼ってあるシールを見つけて、こんなことを話していた。
--- このシールには「体脂肪を減らす」と大きくはっきりと書いてあって、だから、何か恥ずかしくて、すぐにはがしたくなるんですかね------- 。
そのあとも、半分になってしまったシールでもすぐに見つけるし、大量に貼られた場所もあることもわかった。そういう場所は、大勢の人が行った結果なのだろうか。それとも特定の個人が、毎日のように行っている行為なのだろうか、と考えてしまったから、確かに広がりのあることだとは思う。
この街中に貼られるシールを探す行為は、おそらく誰もしていないことだろうから「偏愛」といってもいいものだと思うけれど、強烈なインパクト、というのではなく、なんともいえない不思議な印象を残す人だった。
ふかわりょうに一票
番組のMCであるふかわりょうも、絶賛していた。
正確にいうと、絶賛というような強い言葉よりも、敬意を持った控えめな称賛という表現の方が似合うかもしれない。
そのことは、記事にもなっている。
この「偏愛さん」のコーナーを初めて見て、こういう人ばかりなのか、という驚きがあったのだけど、その中でも、ある意味で突出した存在なのを確認して、どこか安心するのと同時に、こうした視聴者の反応を計算できないような「マニアックな人」を出演させてくれた、この番組の凄さを改めて知ったような気がした。
私も、もしも「偏愛さん」の投票があったら、ふかわりょうの見方に一票を入れたい気持ちになった。
マルセル・デュシャン
20世紀以降の現代アートの流れをつくったと言われるのがマルセル・デュシャンだった。
ピカソと同時代に活躍もしていたのだけど、その評価は、1960年代にアメリカでアンディ・ウォーホルらがポップアートで、アートの歴史を変えたことで、再評価されたような部分もあったらしい。
デュシャンは、展覧会に男性用便器を出展し、その出展を拒否されたことに対する文章を書き、アーティストが作品をつくるだけではなく、選ぶことで作品となる、といった主張をしたようだ(このあたりは記憶だけで書いているので、詳細は、専門家の書籍などを読んでいただければ、と思っています)。
私も、ただ好きでアートを見始めて、いわゆる現代アートと言われるような作品が面白いと思えるようになったのだけど、その元祖として、デュシャンが「レディメイド」という概念で、選ぶのもアートという主張があったおかげで、その後のアートの概念が圧倒的に広がったのを知るようになった。
そういう意味では、アートが概念(理屈)でもある、ということを証明した人でもあったのだけれど、そのことを快く思わない人は、今でも多いのだろうと思った。
「体脂肪を減らすシール」を集めるのではなく、街中に、誰かがほとんど無意識で貼ったと思われるシールの痕跡を求めて、それを探す、という行為は、現代アートといってもいいことだと思った。
ただ、そうした特定のジャンルにおさめるのではなく、ある種の自然現象を観察する人、と言ってもいいのかもしれない。
動画
その女性の行為を、現代アートのようだから、すごい、という失礼な見方をしたいわけではない。
こうした「偏愛」的なことを、おそらくは、誰に教わったわけでもなく、ふかわりょうが言っていたように、違う視点で見られることを提示した、という意味でも、オリジナルでありながら、ちょっと目の覚めるようなことだと思った。
名づけられない行為。
そう言ってもいいことなのだろうけれど、大げさな解釈や、賞賛などもおそらくは、本人は望んでいないのだろうと思う。
X(旧ツイッター)にも、『街中の「実は!体脂肪を減らす」シール』というアカウントがある。
おそらく、「バラいろダンディ」に出演した本人だと思われるのだけど、その固定されたポストは、エスカレーターのベルトの下の銀色の壁(?)のような部分に貼られた「実は!体脂肪を減らすシール」を流し撮りのように撮影した動画だった。
このシールにここまでの「偏愛」を注げること自体が、やはり不思議で興味深いことだと、改めて思った。
そして、とても大きなお世話なのだけど、この「体脂肪を減らすシール」をメーカー側がつけなくなったらどうするのだろうか、その時は、別のシールか、全く別の行為に興味が移るのだろうか、などと考えた。
そうした想像を、ただの視聴者にもさせてもらえるのだから、間違いなく豊かさを持った行為ではあるとも思った。
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