歳差運動2-⑧

寝込みを襲った大地震に遭ったが如くに職員全員が目をパチクリさせたのを俺は見た。

何を言い出すのか?今後の平和な学校生活、教育活動を保証してくれるのか否か、大きな死活問題だと殆どの職員が認識しただろう。

「すでに決まっている教育課程の計画について、異を唱えるのには何か訳でもあるのかしら。種田先生の意見を聞きたいです…読書の代わりになるような、何か案があるのですか」

右手の甲で顎を支えながら自信ありげに言ってきた。                嫌な雰囲気が漂った。

続けて

「反対するだけでは前に進みませんよね」

助け船を出してくれたのか、それとも多数派の代弁者なのか?はかりかねた。

今日の昼休みの些細な出来事を連想した。俺を褒めていたあの出来事。俺のこれからの発言如何によってその真意が分かるというもの。

自信ありげに胸を張った。スタンドプレーだが…

「はい、もちろん反対のつもりで言ったわけではありません。言葉が足りなくてすみません…朝の活動について、もしかしたら読書よりも教育効果のあるものはないかと…この際なので皆さんに意見を求めただけです。毎年同じものを続けるよりは、変わったことを取り入れて子どもたちに変化をもたらした方が意欲刺激につながり、児童のよりよい変容につながるかもしれないと思っただけです」

少し間を開けて

「先ほどマンネリ化という言葉を使いましたが、私はこの北城小学校に来て6年目を迎えますが…子どもたちの様子を観察していると、その資質とか能力とか…意欲面とかが毎年変わり映えしないように思います。心の変化というか、何かプラスになるような変化を期待するにはいつも同じことを繰り返していてはだめだと思います。前の校長先生も前年度踏襲は学校の悪しき慣例だと言っていましたので…」

いつしか雄弁になっていた。が、殆どの職員は俺のことをただのうるさいオヤジだと思っていることは自覚している。       そうなると逆に私の独壇場になったと言える。話し合いの流れが自在にコントロールできる。                 こういうときは、長々とやるより短い言葉でビシッと締めくくったほうがいいのだ。

「朝の運動を採り入れてみてはどうでしょうか?」

キツネに化かされたようだった。     職員の表情が驚きに変わった。      ええーー!という驚きに。        向こう正面のおばさんが“ふざけないでくれる!”と言った気がした。

構わずに

「私が体育教育担当になったので言うわけではありませんが…近年、運動と学習効果の関連性が指摘されています。例えば、ジョギングなどの有酸素運動をした後は、脳が活性化され、覚える考えるなどの学習効率が飛躍的にアップするそうです。これは科学的根拠がしっかりしています…私もいつかどこかの学校で実践してみたいと思っていました」

堰を切ったように

「欧米のエリートサラリーマンなどは朝からジムなどでビシビシ鍛えてから仕事に向かうそうですよ。それは、運動によって頭が冴え仕事が捗りいいアイディアが浮かぶことがあるからだそうです。また、人と交渉するときの決め手となる体力があるから、優位に事が運ぶそうです」

「これを子どもたちにあてはめてみてください。朝の運動で脳が覚醒し、1時間目の授業からパワーが全開し、授業に活気が出ること間違いないです。読書の後の1時間目はみんなぼんやりしている気がしますから」

弁舌たくましく、最後の最後まですっきりと吐き出すことができた。


続く~