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【小説】地下鉄殺人の傍観者

あれは、俺が電車の無い田舎から都会に引っ越した時の話である。
最初思ったのが都会というのは、ごちゃごちゃとしている、ということだった。
特に地下鉄が、俺にとっては複雑で難解な物に映った。
それをダンジョンと言ったのは上手い例えだろう、俺も共感した。
それと同時に、都会という複雑的な物は田舎には無いなとも感じたし、都会には田んぼも山もない、全く似た物が無い。
そう俺は思っていたが、あれに遭ってからは都会と田舎は似てるもんだと感じた。

俺が急ぎ足で大学に向かう時、焦ってしまい自分の乗るべきホームを見失い、いつしか、その中を迷っていた。
ここがどこかも分からぬまま階段を登ったり降りたりを繰り返していた、その時だった、前にスーツの後ろ姿が見えた。
助かった、人がいたと安心感を覚え、後を追う。
後を追うと、いつのまにか駅のホームに着いていた。
よし、これで遅刻はするが脱出できる。
そう安心感を覚えていたが奇妙なことに、そのホームには人がスーツの男以外、全くいなかった。
スーツの男の横顔だけが見えていたが、その顔は魂の抜けたような、白い顔だった。
男の顔を見ていると電車らしき物が近づいてくる音が聞こえた、轟音を鳴らしながら段々と近づいてくるのが分かった。
その時は教授への言い訳を考えていた。
電車が到着したようだと思い見てみると違かった、それは電車ではなく真っ黒な長方体の塊だった。
その不気味なモノに俺は驚き、スーツの男をまた見ると、男は感情がない感じで、目を虚ろにしていた。
すると、長方体の、ホームに向いている側面がスーッと開いた、中は赤いウネウネした触手のようなモノで埋め尽くされており、スーツの男は、そこへ進んでいき触手に体を包まれながら中へと消えていった。
側面が閉まり、左に向かって消えていった。
ただ茫然と傍観するしか俺にはできなかった。

俺には前にも似たような体験をしたことがある。
友達が山で自殺した後の話だ。
その友達の葬式の帰り、田舎の夜道をトボトボと歩いていると見覚えのある後ろ姿が見えた、友達だった。
今思えば真っ暗な道なのに、とは思うが。
友達は山の方向へと歩いていき、やがて山を登り始めた。
俺は死んだはずの友達がいることが不思議に思い好奇心に駆られて奥へ奥へと追いかけた。
木に少し隠れていた時だった、山の奥から地面が震えるような音が聞こえて、止んだ後にビクビクと顔を出すと、友達は消えており、暗い山道があるだけだった。
急いで走って、道に出て、後ろを振り返ると黒い山からウネウネした影が揺れているのが分かった。
すぐに家に帰り俺は祖母に怯えながら、このことを話すと。
祖母は話し始めた。
「それは、弱い心の人を殺して食べるものなんだ」
「なんなの?」
「強く生きなさい」
祖母は、その後はこれしか言わなかった。

この事があったから、俺は都会と田舎は、同じもんだと感じてしまった。
あのスーツの男も友達も殺されてしまったんだろう。

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