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2022.08.17備忘録「墓の鍵/ミズハギの花」

四国南、海崖地形の海ぎわの町に住んでいます。

このお盆で、そういえばうちの地域ではお盆にナスとキュウリの牛馬を作る習慣がないことを気づきました。
じゃあどうやって先祖の霊に帰ってきてもらうのかというと、墓参の際に家紋入りの提灯を灯し、「ご先祖様着いてきてください」と唱えるだけ。先祖の霊は家族のうしろを着いてきます。家に帰って仏壇を拝めば、盆が終わるまで先祖は家に居着いてくれます。
だからお盆の入りに、夕方の墓までの道を行くと、提灯を下げた一家がずらずら歩いています。


この墓参りで欠かせないのがミズハギという花です。
薄紫の小さな花をたくさんつけた、細長い花姿をしています。

このミズハギは、墓参りの帰り、必ず墓の花立(シキミや造花を立てる場所です)に立てないといけません。
先祖霊が家族について行って留守になった墓に"別の悪いもの"が入らないよう、花立に挿すのです(父いわくこの”悪いもの”がなにかは判然としないそうですが)。
盆最終日の早朝にまた墓参りに行きます。花立からミズハギを抜くと、背後についてきた先祖霊が墓に帰ります。

土地の人はずっとこう教わってきましたーーミズハギは「墓の鍵」なのだと。先祖霊が墓を出入りするため、生者がミズハギで墓の扉の開け閉めをしてやるのです。

徳島でミズハギと呼ぶこの花は、全国的には禊萩(ミソハギ)とよばれる種類だそうです。

ミソハギ - Wikipedia



余談を一つ。
我が家には、戦後に立てた家族墓と江戸時代前ごろからそのままになっている大量の個人の墓があります。

家族墓とは、現代よく普及している「◌◌家之墓」と刻まれたものです。プロポーズでよくある「俺といっしょの墓に入ってくれ」は主にこちらを指します。家族全員が一つの墓に入ります。
一方個人墓では、墓は一人一基です。我が家の墓群も、風化したり苔むしたりして、生前の名前とも戒名ともつかない名前が一基一基刻まれています。


家族墓の花立ては墓石の台座に一体化していますが、昔の個人墓では地面に直接挿した陶器の筒になっています。

地中から生えた筒は故人が眠る空間につながるようで、私はずっと怖くてあまり近づきたくありませんでした。あるいはそれは、即身仏になろうとする人が地上の酸素を吸うために設ける通気口も連想させました。

たぶん小学生くらいのお盆に、ミズハギを挿しながら筒をのぞき込みました。
筒は、古井戸のように水を暗く湛えているだけでした。
墓参のたび、水からただよう夏草の腐ったにおいを思い出します。