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水底の暗い景色も水面の明るい日差しも知っているから(不登校日記1)

一番上の子、中学生のいっちゃんが、ある朝突然「学校を休みたい」と言いだした。

目立ちたがり屋で頑張り屋のいっちゃんが突然ギブアップ。そういえば最近朝ごはんを食べたくないとか言っていたけれど、あれがサインだったのか。

狼狽した。心配したりイライラしたり開き直ったり。え、え、こういう時って親ってどうするんだっけ。

そして最近は結局「開き直る」という事になりつつあり、いっちゃんの不登校日記でも書いてみるか、と天を仰ぐ無能な親の私であった。

思えばいっちゃんは、中学生になってから一年間、学校生活も勉強もフルスロットルで頑張っていた。それが突然ぷつんと途切れてしまったよう。優等生気質のいっちゃんは、真面目すぎるのだ。

まあまあ、とにかく一旦落ち着こう、となだめるも、もうすでに水は溢れてしまった様子。とにかく、いろんな事が面倒だと。主に勉強がしんどいようだった。

こうなる前に気付けなかったものかと悔やんでも、テスト前には勉強しろしろとうるさく言ってしまったのが私の凡人の親たる所以で、その凡人の私が事前に何かを察知できたりするわけはないのであった。

手始めに、学校のカウンセラー面談をした。いっちゃんが先に一人で行ったが、もう二回目はいい、と言う。その後私が一人で出向いたが、その人は、話を聞くというより、ズバッと物申すタイプのカウンセラーさんだったので、なるほど、こういうタイプはいっちゃんに合わないかも…(ちなみに私も合わない)。と、こちらの道は諦めた。

幸い、いっちゃんは我が家の複雑な家庭環境ゆえ、公共の施設で心理士さんと月に一度面談をしてもらっている。ここと繋がっておいて本当に良かった。今は学校よりもそこが頼みの綱となっている。

私は夫と別居中、いっちゃんは不登校、ニンタは持病と知的障害、ミコは吃音。

なんでこんなに次々と難題が課されるのかしらと思わないわけではないけれど。

そもそも学校って大変だし、思春期って大変だし、平気な顔して毎日通える方が奇跡なのかもしれない、などとも思う。(繰り返しになるけれど、家庭環境も整っていないし)。

まあ、親は流されるしかなかろう。

不登校の子が家で毎日ゲーム、スマホ、テレビ、と好き放題しているのは、家にいる私には少々ストレスでもあって、私はそれを解消することに重点を置いている。

いっちゃんの不登校でイライラして、子にきつく当たることがないように。

タイミング良く、数ヶ月前から始めていたジム通いが役に立っている。(例の、洋服を着替えなくて良いという安価なジムです)。

朝「今日も行きたくない…」とこの世の全てに怨念を募らせて申し出るいっちゃんに絶望を感じながら、努めて冷静に(しかし動揺は完全にバレつつ)「うん、わかった!ミコとニンタを学校に送ってくるね!」と返事をして出かける。

そしてその帰り道にジムに寄り、三十分程筋トレをして、負けるものか負けるものか、とウェイトに自分の負の感情をぶつけてから帰宅する。そうすると、いっちゃんと明るく話すことが出来る。

いっちゃんも、登校しないと決まれば家で明るく軽口など叩いて過ごしているので、そこも救いではあるし。

いっちゃんのケアとしては、自室で一人で寝ていたものを、また小さい子との雑魚寝部屋へ呼び戻し、みんなでしゃべりながら寝ることにした。

スキンシップもまだ嫌がらないので、「おんぶしてあげようか」、などと言うと「やってみなよ!」と大きな体を乗せてくるので、小さい子と同じように、順番にやってみたりする。

そういう事が、効果があるかどうかわからないけれど。

課題として、いっちゃんは完璧主義で遅刻も早退も嫌がるので、そこをまずクリアすることだと思っている。

一度行ったら最後、戻れない、というのは、登校のハードルをあげることになるので。

早退の練習、と称して登校した日は、無事に登校、早退、というミッションをクリアして、帰宅してハイタッチした。

遅刻の練習もさせたいけれど、それはまだ無理らしい。

本当に、完璧主義というのは大変なものだ。

いっちゃんが一人ぼっちだ、と思うのは、友達が少ないから、という理由だけではない。私は下の二人にかかりきりで、周りが全然見えていない。夫も同様だし、私以上に気が回らない。下の二人は幼すぎて話が通じない。家族の中で、いっちゃんだけが冷静でまともなんじゃないかと思うのだ。

小学生なのに。

一人ぼっちの、いっちゃん

数年前に書いた自分のnoteの一部だけれど、当時から夫婦仲も崩壊していて、それはそれは我が家は悲惨な有様だった。

それが、夫と別居して私が少しずつ元気を取り戻し、下の子もちょっとだけ大きくなって平和な時間が増え、家族の中で「一人だけ冷静でまとも」だったいっちゃんは、順番待ちをしていたんじゃないか、家族がうまく回りだしたから、やっと安心して崩れることができたのではないか、などと思っている。

とはいえ、不登校の本当の原因はわからないし、本人もうまく言語化出来ないようである。

それを勝手に、母親である自分を主人公にして、私が原因であるかのように決めつけるのは良くない、とは思う。

でも、暗い海底に深く沈んでいる母親が、浮上して元気に泳ぎ出すのを、いっちゃんは懸命に水面でバタ足しながら待っていたのだ、と思うことで、私には心の余裕が生まれる。

待っていてくれてありがとう、安心して沈んでおいで、と言うことが出来る。

そう思えるまでに二ヶ月くらいかかったけれど。

どっしりと構えることなく、ちゃんと困惑しながら、思春期の子の母として、この度デビューした。

潜ってみたり顔を出したり、戯れに誰かと競争してみたり。いつか、家族全員が、イルカみたいに自由にこの世界を泳ぎ回れるように、私達は、いろんな泳ぎ方を試している真っ最中なのだと思う。


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