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吃音という長い旅路

3番目の子、ミコの吃音の訓練が正式に始まった。

今年の年始にぐっと悪くなり、2月に少し良くなって、その後はやや悪化(しているように私には見える)の状態で、正式な通所が始まった。

面談→診察→訓練開始、という手順で、その間に訓練が必要かどうか会議にもかけられた後に正式決定、日程予約となるので、3ヶ月ほどを要した。

担当の先生も変わり、新しい先生はあまり親(私)に厳しくない。夫と共に臨んだ面談で、息も絶え絶えだった私の状態は伝わっているのだろう。家での宿題は特に出ず、困ったことがあればその時の対処方法を提案してくれる、といった感じ。

今の所、月に2回のペースで通っている。先生とミコが向き合い、ルールに沿ってゲームをする。私は横でそれを見学する。

簡単なルールであれば、「やったー!」とか、簡単な言葉しか出ないし、ゲームに気を取られているので、ほぼ独り言状態というか、吃音は出ない。そういう、吃音が出ない状態をあえて作り出して、少しずつ馴らしていくという事なのだろうか、説明を受けたのだけれど、まだきちんと仕組みや見通しを飲み込めていない。

しかし、あれだ。既視感。

知的障害のある2番目のニンタは、1歳半から療育に通い、民間の療育も何ヵ所か通った。そういう経験をしてきた私からすると、吃音だからとか、知的障害だからとか、そういう困り事の違いで内容がガラっと変わったりはしないんだな、と思った。

療育というのは、遊びを通して必要な力をつけていくので、その子のレベルに合わせた遊びを用意して、目的に沿って先生が誘導しながら遊ぶ。一見、吃音とゲームは関係ないような気がするが、勝ちたいあまりにルール違反しそうになるところを、ぐっと我慢する、コントロールするのも、言葉のコントロールに通ずるところがあるのだ、とのこと。

優秀な親であれば、さっそくそれと似たゲームを購入し、先生がやっていたように、丁寧にルール説明したり、コロコロ脱線していくミコの話にもゆっくり付き合ったりして、家でその状態を再現してみたくなるだろう。

優秀な親であれば。

ミコの吃音が出ない状態は、私もとっくの昔にわかっている。独り言や、咄嗟のひとこと。逆に何かを説明しようとしたり、改まって挨拶しようとしたりすると、吃音が出る。

と言って、話したがりのミコに「説明するな」ということも出来ないし、そうすると、こうやってゲームでもやって気を逸らすという事になるんだろう。

ゲームを…ミコと…。

いやいやいや、やめておこう。先生に言われたわけでもないし、あれは先生の前で、ある程度遠慮があるから成立しているのかもしれなくて、親の私がやったら散々になりそうだ。

そうでなくても、ミコは4歳にして、遅れてきたイヤイヤ期というか、今まで3人の子の中で断トツに手がかかっていたニンタを抜いて、一番ワガママで制御不能な子になってきた。自分の見えなかった力に気付いて、それを試したくて仕方のない感じ。

ゲーム盤を間に差し向かい、ルールを無視してメチャクチャに遊び出すミコを眺めて、泣いている私が目に見える。

自分で出来ないから、訓練に通っているのだ。私はそれを見守る事で、少しずつ先生の仕草言動が染み込んで、余裕のある時にちらっとモノマネをしてみたくなる。そのくらいの効果で良しとしないと、身が持たない。

でも、純粋に月に2回ゲームをしたところで、吃音が治ったりはしないんだろうな、ということは私にもわかる。家に何を持ち帰るか。親がどれだけ成長できるか。そして、そうやってマゴマゴしている間に本人の力が伸びてきて、自然と出なくなれば一番いいけれども。

診察のとき、言語の先生が書いたレポートを読んだ小児科の先生が、「年齢よりも言語の発達が遅いということですが、発達検査は希望されますか?」とサラッと言ったのだが、ミコは言葉が拙いらしい。

今まで、ついニンタと比べてしまって「定形発達の子ってすごいな!教えないでも勝手に覚えるんだ!」という感想しかなかったミコが、言葉の発達が遅いとは。そうかー。そうか。確かに、少し。

逆に、言葉の発達が伸びれば吃音も減る、という希望もあるけれど、また心配性の私があらゆる可能性を検証し始める。

一旦中止。中止。思考を中止。

吃音に関して、素人でわからないから、プロのところに通っている。私は言われた通りに月2回、ミコを車に乗せて通うのだ。それが今の唯一のミッション。通ううちに、私の出来ることも、もしかしたら見えてくるかもしれない。

まだ吃音との暮らしは始まったばかりだ。これから長い長い年月がかかる。

だから、どんな形でもいいから、この旅を続けること。続かない努力は、今回に関しては、むしろ悪。

一緒に暮らしていくんだから。吃音と。

でも。何度も言ってしまうけれど。吃音って別に悪いことじゃないから。その人の癖だから。吃音を否定したくない私も連れて、一緒に旅をするのも、また矛盾があって、それはそれでしんどい。








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