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親バカと吃音

3番目のミコの吃音改善のため、言語の先生のところに通って半年以上経つ。

初めのうちは、「良くなった、悪くなった」と変化に敏感で、一喜一憂しても仕方がないことなのに、心は上へ下へと大きく揺さぶられ、長い目で見ることが出来ない自分自身を情けなく思った。

ところが、人間というのは怠惰なもので、長期に渡ると良くも悪くも「慣れ」というものがやってくる。

夏休みの関係で、8月はいつもより訓練に間があいてしまった。そして、久しぶりに会った先生に「少し多くなっていますね」と言われるまで、私は吃音の悪化に全く気付いておらず、そんな自分自身の変化に驚きと焦りを感じた。

怒涛の夏休み期間で、こどもの世話でいっぱいいっぱいだったせいもあるかもしれないけれど、それにしても。

一喜一憂しなくなって良かったとも言えるけれども、あまりにも漫然としてしまうのも良くない。変化に気付くが動揺はしない、というのがベストではないだろうか。

そんな私の状態と関係があるのかないのか、先生からの宿題が増えた。ミコの吃音を記録するように言われたのだ。これは以前から予告されていたことだったけれど、私の精神状態を見て、先生が様子見をしていたのかもしれない。

先生から渡された記録用紙には、吃音についての気付きや、その程度を5段階で書く欄が並んでいたが、先生は最後の「備考欄」が一番大切だと思っている、と言った。

備考欄には、ミコの良いところ、褒めたい事を書いてほしいと言う。吃音は不安感によって悪化することがあるが、不安を消すことは難しい。その代わりに嬉しい事を増やし、自信をつける事で相殺したいというのが、先生の狙いだった。

「こどもをたくさん褒めてください」。

これは世の親が聞き飽きるほど言われている事で、私も、「おお、それがきたか」という感じだった。もちろん子を褒めるのに嫌なことなど一つもないが、親としての技量を試されているような、ちょっとお腹にぐっと力が入るような仕事。

でも、先生の「吃音のある子、という目線の記録ではなく、ミコちゃんという子、全体を見てほしい」という考えは、とても賛同できるものだったので、割と前向きにコツコツと毎日書いている。

何しろ、私は書くことが趣味なので、それほど苦労はない。何か緊張するようなイベントはなかったか、どんな言葉や場面で吃音が出たか、そして今日はミコのどんなところが良いと思ったか、毎日一言書いていく。

書いてみると、やはり吃音が少し良くなったり悪くなっていることに気付く事が出来て、漫然となってしまっていた私にはピッタリの宿題だと思った。

そして、ミコの良いところを毎日書いていて、ハッとした事があった。発見と言ってもいい。

ミコは、機嫌が良い…!

ミコに、機嫌のいい人生を送って欲しいとnoteに書いたことがあった。でもそれはミコの長所だから伸ばしたいと思ったわけではなく、大きくなったら失われてしまうもののような気がしたから、そう書いたまでだった。

これは当社比というか、我が家比でしかないのだけれど、上の二人は、幼稚園や学校から帰ってくると、機嫌が悪いというわけではなくても、ただ疲れていたり考え事をしていて、無表情な時というのがあったし、今もある。それがまあ、人間というモノだと思う。

しかし、ミコは保育園へ迎えに行くと、いつもスッキリした顔で登場する。いや、スッキリを通り越して、ふざけている。おかしな顔やポーズを研究し、その日習った歌や踊りを披露し、何か楽しいことはないかと歩く道々で探している。

4歳というのは無邪気なものよ、と思っていたけれど、これはこの子の才能なのではないだろうか。

一方で、保育園の連絡帳には「大切なお話の最中にお友達とふざけてしまって、先生に叱られて泣きました」とある。

確かに困る。いつもふざけているのは。

でも、機嫌が良くて、すぐにふざける人は強い。少なくとも、私にはほとんど備わっていない機能で、すぐに深刻に、すぐにメソメソする私からしたら、羨ましいの一言だ。

言語の先生にいわせると、ミコは少し繊細で甘えが強く、不安を多めに感じるタイプらしい。(だからなのか、叱られるとすぐに泣く)。

それなのに、叱られても数分経つとケロッとして、機嫌がいい。すごくいい。ふざけることにものすごく熱心だ。泣くくらい叱られるのが怖いのに、何度もふざけるなんて学習能力がない、と思っていたが、ふざけずにいられない何か陽気な根っこがあるとも考えられる。

いやいや、こどもってそういうモノですよ、…という知識は私にもある。でも、上の二人や私に比べると、どうにも陽気が過ぎるのだ。

もしかしたら、こんな長所があれば、吃音ともうまくやっていけるかもしれない。

吃音の記録をつけながら、私は親バカ全開になって、ミコの将来は怖いものナシだと、本気で思うようになった。この陽気さ、悪く言えば落ち着きのなさが、例えこの先「発達に問題あり」とされるような類のものであっても、私はミコの「ふざけた気持ち」を大切にしたい。

親バカは、時としてこどもの成長を後押しする。親が本気でこどもの力を信じるという事は、きっと悪い事じゃない。

吃音がなんだ。

この子は、こんなにキラキラふざけている。



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