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掌編小説│青春note【夏の香りに思いを馳せて】

友だちに恋をしている。
たぶん、恋なのだと思う。

かおるにはこの気持ちを気付かれないように、気を付けている。
優しいヤツだから、告白すればたぶん付き合ってくれるだろう。けれど、自分がまともな人たちみたいに誰かと交際をするとか、まるで想像できないし、今まで通りただの友だちとして仲良くしていければ十分だ、と思う。

「さら、おはよう!」

ホームルーム前、薫と朝の挨拶をする時、私はちょっと変な顔をすることになっている。いつからこうなったのか忘れた。二人だけの暗黙の了解で、私の方は無言でも許される。
薫は私の変な顔が好きなのだ。

「わはは。今日もかわいいよ〜」

薫はサラリと女の子にこんなことを言える。朗らかだから、ほかの女子にもよくモテる。
そのうちかわいい彼女ができそうだ。
その時は友だちとして、祝福したいと思う。

「今日さ、学校終わったら、さらに頼みごとある。空けといてね」

是非もない。が、いちおう私らしく、面倒臭そうな顔を作り、親指を立てて見せる。
たぶんまた、絵のモデルになれと言うのだ。

薫は学校の美術部には所属せず、家のアトリエで変な絵を描いている。中学生の時から。noteというSNSで描いた絵を密かに発表し続けていて、今では1000人以上もフォロワーがいる。いわゆる人気クリエイターだ。
私はスマホもパソコンも持っていなかったから、それがどういう意味なのかいまいちよくわかっていないのだけれど。

薫の創作活動を学校で知っているのは、どうも私だけらしい。
なぜか私には打ち明け、「さらを描いてみたいんだ」と言い出した。それが春だった。
是非もない。私ははじめて会った時から、薫が気になっていたし。

絵のモデルになると、薫からはなにかお菓子をもらえる。チョコレートとかぼんち揚とか。それと本を貸してもらえる。
まあ正直、お礼なんかはどうでもいい。
描いてもらえるのが、嬉しい。
同じ場所にいられるのが、嬉しい。

「お店にね、行きたいんだよ。猫のカフェ。noteの友だちがオススメしてるの。ちょっと楽しそうな感じなんだよ」

予想が外れた。モデルじゃないのかよ。今日の薫が描くのは、私じゃなくて猫なのかよ。
放課後、猫に嫉妬してしまうかもしれないなあと思いつつ、もう一度変な顔をして、黙って親指を立てる。

「おお? 顔に出てるよ。ひひひ、ばればれだよ。お店のあとはさ、またさらの絵を描きたいんだけど。それもOKだよね」

薫は軽くウインクして、自分の席へ行く。
きっと私のことを、もてあそんでるんだ。
でも、確信犯はお互い様だから仕方ない。
いつも肝腎なことは、語り合いたくない者同士なのだ。
お互いずっと楽な、良い距離でいたい。
きまぐれな、男の子みたいな、女の子同士。

もう始業のベルが鳴る。
私はつまらない授業の時、たまにこっそり短い物語を書く。
今日の数学は、猫らしくない、変な猫のお話を書くことにした。猫がたいやきになるお話なんてのも悪くない。

私は男の子になりたいのか。
薫に男の子になってほしいのか。

たまに考えるけど、よくわからない。
曖昧な、きまぐれな、変な子のままでいられたら良いと思う。私は変だから、お話を書くことも、薫も、好きになったんだし。

さて、まだ誰にも言っていないことがある。
昨日、初めてのバイトの給料で、とうとうスマホを買った。
それで今朝、ノートの小説を初めてnoteに書き写して、投稿してみた。
夏って、こんな私でも行動的にさせる季節。

スマホをマナーモードにする時、はじめての通知に気付いた。一人目のフォロワー?

薫がにやにやしながら、こっちを見ていた。
そういや、薫のnoteは、まだ見てないな。
どんなもんか、あとでこっそり見てみるか。

教室に、草の匂いのする風が吹き抜けた。
私はまた変な顔をして、先生にも他の友だちにもばれないように、親指を立ててみせる。

了(1557字)


ささやかですが青春ぽい掌編を捧げます😆
どうぞ召し上がれ🎶

思い出をつくれる場所がそこかしこ
けふも気ままに風吹く方へ

よろしくお願いしまーす٩(๑•ㅂ•)۶

ラブあんどピース🍀

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