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虚構日記「ここはビル風吹く砂漠-仙台旅行記②-」

「強風!手を離さないで!」
「ビル風」「取手から手を離さないで!!」
「喫煙可能店」「強風」
「お持ち帰り出来ます。ハヤシライス」
そんな貼り紙がめぐらされた喫茶店。
外からはあまり中の様子は見えない。入店。

ああ、確かに強風だ。

カウンター席に案内される。
感染症対策だろうか、席と席との間にパーテーションが鎮座しておりやや肩身が狭い。字面通りに。
コーヒーを頼み、持ってきた新書をひらく。
言語哲学の入門書は数時間前までわたしに優しかったはずなのに、今ではロゼッタストーン。
コーヒーはやや癖のある酸味をわたしに伝える。
ふとテーブル席の学生二人組の会話に耳を傾ける。

「社会人になったら禁煙しような。」
「そりゃそう。」

と話す二人の手には煙草。ツッコミ不在な純喫茶。

社会人。
わたしは正直なところ、早く社会人といわれるステージに立ちたいと思う。
もちろん学生は無敵だ。責任をとってくれる大人に守られた上で“責任”ごっこをしているに過ぎないのだろう。
学生生活はとても楽しい。
享楽的で、文化的で、刺激的だ。

酸味の強いコーヒーは冷め切る前に飲むに限る。
最後の一口に臨もうとした時、ふと思い出した小説の一フレーズ。
そうか、あの言葉のおかげで社会人になりたいんだなわたしは。
あの言葉のおかげで未来に憧れを抱き続けられているんだ。

仙台が舞台の、大学生が主人公の小説。
伊坂幸太郎『砂漠』のラストシーンで学長が伝えたあのメッセージはわたしを生かし続けてくれている。

未来の禁煙家たちは「お互いに家庭をもったら家族同士でバーベキューをしよう」だなんて話している。
未来の自称社会人は、再び新書に目を落とした。

#虚構日記
#創作

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