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WAVES

こんな時にどうかな、とも思ったけれど、「WAVES」を観に行った。

映画館は両隣ひと席空けて、マスクをして鑑賞になっている。

「WAVES」は本当にすばらしい映画だった。今年いちばんの映画になると思う。とても情緒的で、心象風景が視覚的にも音楽ででも表現されていて、心にダイレクトに訴えかけてくるような映画だった。

視覚的な表現はとてもユニークで、色や画面サイズでも表現される。新しい表現方法だ。心の動きを動的に表現するのに画面サイズを使うというのは驚きだった。主人公が追い詰められて視野が狭くなると、画面も狭くなる。それがわざとらしくなく、自然に目に入ってくる。色もとても象徴的だ。キービジュアルになっているシーンのアレクシスの蛍光のネイルのカラー、海のと空の色はとても素晴らしかった。幸せとその移ろう不安定さ、弱さ、強さ、不安、愛情、そのカオスがとても美しかった。

音楽のチョイスも心象にあったもので、程よく主張してくる。その分セリフはとても抑え気味だ。音楽はあとで入れるだろうから、俳優さんたちは演技が大変だったのではと思う。パンフレットを買えばよかった。音楽のチョイスについて書かれていたらぜひ読んでみたい。

ストーリーもとても良い。事前に知っていたほうが良い事柄としては、鎮痛剤のオピオイドの問題だ。ものすごく簡単にいうと、依存性もある麻薬のような鎮痛剤を副作用も依存性も隠して、製薬会社が販売し、問題になっている。なぜ急にタイラーがあのようになってしまったのか。確かにいろいろなことが重なったとは言え、あまりに極端に思えるかもしれないけれど、オピオイドの話を知っていればあまり戸惑わなくて良いかもしれない。

家族の再生や、個々人の回復が緩やかに情緒的に描かれていてとても素敵な映画だ。

個人的にはエミリーが皆の心の重荷を背負いすぎているようで心が痛かった。エミリー自身が自分の自由意志ではなく、家族のために、恋人のためにという行為がとても複雑な気分になった。彼女自身の重荷は誰が一緒に持ってあげるのだろう。自分の感情がうまくつかめないのかな。いつもどこか覚めていて、悲しそうに見えて切なかった。

父親の心理的虐待が心が痛かった。これは世代間の連鎖かもしれない。そう思うと、父親も母親もタイラーも、エミリーも、切ない。最も悲しいのはアレクシスとその両親だが。ちょっとした弱さや、不運、ボタンの掛け違いで、思わぬ結果を招く。そういうことは避けられないのかもしれないけれども、やり直したい、と思ったら、ゆっくりでも回復してまた立ち上がろうとすることができるかもしれない。




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