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カレーうどんを噛む夜

肌寒い夜が続いている。コンビニエンスストアの目に眩しいほど白い店内で、この頃地味ながらも確かな存在を放つものがある。
カレーうどんだ。温かいうどんに適度な香辛料の辛味が合わされば、外を歩いて冷えた体も内側から暖まろうというものである。
店員の「あたためますか?」を断り、早足で帰路につく。玄関にたどり着き、後ろ手に鍵をかけ、廊下をコートを脱ぎながら歩く。部屋につく手前に電子レンジがあるのでカレーうどんのプラスチックのやたらと軽い器をぽんと放り込んで、スタートボタンを押してから荷物を置いた。
出来上がるまでの6分間、部屋着にさっさと着替え、暑苦しい靴下も洗濯カゴへ放り投げ、手を洗ってテーブルのものを避けて食べるスペースを作り、メッセージに返信をする。
ぴーっぴーっと耳にうるさい音が出来上がりを知らせてくれる。電子レンジの戸を開けて取り出したら、うどんをこぼさないよう戸を閉めてすぐに器を両手で持ち、部屋の扉は足で開けて足で閉める。開けないままにいただきますを済ませておいた。
透明な蓋を外し、その端っこにくっついた青ネギを指でつまんで、1人で「あつっ」と叫びながらうどんの中に戻す。空腹の勢いに任せて割った箸は片方が太く、片方が細く、随分とアンバランスになってしまったが食べるのに支障はないので良しとしよう。
箸の先で乗っかってる具材を軽く混ぜる。カレーつゆでひたひたになる前にしゃきしゃきのままの青ネギを半分くらい奥歯で噛んで楽しんでおく。玉ねぎは逆にひたひたなくらいが好みであるので、麺ごとよくかき混ぜた。
うどんをすするのは難しい。つるつると滑って口の中に意外と入らない。不器用なだけかもしれない。なので一本ずつしっかりとつまんで、すするのではなく「食べる」。この方がカレーが跳ねないしいいやと思った矢先に跳ねて服が汚れた。食べ終わったらすぐに洗濯をしよう。
はぐっともちもちした歯ごたえのうどんに噛み付く。もっちゃもっちゃと噛めば、出汁の和風な風味にほっとするのも束の間、ぴりぴりと辛いカレー味がじわっと染み出す。うはぁ、という息と共に、口から湯気がぽっと出た。
食べ進めていくと、だんだん濃いめの味に口の中がもったりとしてきたので、朝出したままののコップに烏龍茶を継いで一気に飲み干した。カレーに負けないくらいにさっぱりと苦い。
具の豚肉を食み、麺を噛み、汁を飲み、烏龍茶を飲み干す。くるくると繰り返しているうちに残るはわずかばかりのカレーつゆとなった。
箸を置いて両手で器を持ち、少し上を向いて一息に飲む。飲み干したと同時にぷはっと声が漏れた。
手を合わせて1人、ご馳走さまを言う。後に残ったのは空の器と割り方の下手な割り箸、少し汚れた服と、満たされたお腹だった。

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