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アート、デザート、ヨーグルト。

小学生のとき。紆余曲折あって母が家を出ていってから、父がわたしたち姉妹に宣言した。

「もうママはいないから、家のことは3人で協力してやらなきゃいけない」

このときから、家の台所は半分、わたしのものになった。

掃除や洗濯に比べて、料理は実験のようで楽しく思えた。なんにもできないけど、少しずつ覚えていく。お米の研ぎかた、お味噌汁の作りかた、シンプルなところから。

そんなころにとくに楽しかったのが、デザートづくりだ。

デザートと言っても、料理をはじめたばかりの小学生にできることなんて高が知れている。つくっていたのはフルーツ入りのヨーグルト。
父が教えてくれたのか、じぶんたちで勝手にやるようになったのか、いまでは思い出せないけれど、すぐにできるだいすきなデザートだった。

まず缶詰のフルーツを用意する。缶のふたの端で指を切ったりしないようにと何度も言われてたな。父の見ている前で缶切りを使って開けたら、べつのお皿に中身を取り出す。パイナップルや桃は切っておく。缶詰のフルーツはやわらかいので子どもでも簡単に切れる。ときどき生のりんごやいちごなども準備した。

次に、ヨーグルト。大きな容器で売ってるプレーンヨーグルトを開けて、スプーンでぐるぐるして付属の砂糖を混ぜる。

深めのお皿にくだものを並べて、ヨーグルトをそっと注ぐ。くだものが白く埋まりかけたら、またくだものを並べてヨーグルトを注ぐ。

さいごに、上から見てステンドグラスのようにきれいにくだものを並べたら、できあがり。

最初からヨーグルトを入れて、あとからくだものを入れるとぜんぶ沈んでしまうので、ちょっとずつ層を重ねるように、くだものの上にくだものを配置してつくるのがポイントだ。

上からくだものが見えるように、下にホームパイを入れてカサ増ししたこともある。

妹とふたり、ゆっくり時間をかけて芸術家気分でつくって、父のぶんも用意して食べてもらっていた。

いちょう切りのりんご、お月さまのかたちの桃。

家族3人で、くだものの模様が浮かんだアート作品をありがたく食べるのが、ヨーグルトのある我が家の食卓だった。

とくべつな調理なしで、子どもがつくれるおいしいデザート。それがヨーグルト。

ヨーグルトが白いので、中身の具材が秘密なのもゼリーとちがう、わくわくする楽しみかただった。

「なにが入ってると思う?」

父がいないところでつくって、そう言って食べてもらったこともあったな。

楽しかったこととつらかったこと、記憶にこびりつきやすいのは、後者だ。父と妹と3人での暮らしには、大変なこともあったけど、ちゃんと楽しい時間があった。

真っ白で平和なヨーグルトは、そんなことを思い出させてくれる。

また久しぶりに家族でヨーグルトを使って、アートなデザートタイム、しちゃおうかしら。

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