髙田郁さんの小説がすき。

ああ、今日はすきな本のことを書こう。

わたしは、髙田郁さんの小説がすきだ。数年前『みをつくし料理帖』は読みながら泣いて泣いて泣きまくった。

いま手元にあるのは、『あきない世傳 金と銀』の4巻。「女名前禁止」という掟のある江戸時代の大坂で、ひとりの女性が商いの道を志すという物語。非情なほどの事件がいくつも降りかかる。でも、くじけず、主人公の幸はいつも必死に前に進む。このシリーズもすきだ。

ストーリーも、言葉選びも、本をずっと撫でていたくなるほど、うつくしい。

例えば、この部分。
さまざまな困難を前にして、幸の前向きな心情がうかがえる場面。

 不安が尽きることは無い。
 菅原町に至り、少し先に五鈴屋の青みがかった緑色の暖簾が風に翻るのが目に映った。立ち止まって空を見上げる。
 振り仰ぐ天には既に夕映えの気配があった。黄金色に縁取られた千切れ雲が、幾つも浮かんでいる。動かぬ雲の間を縫うように、雁の群れが律儀に楔の形のまま飛翔する。俯いていては気づかない、美しい情景だった。
 先々の見通しはまだ立たないけれども、と幸は軽く息を整える。
 どんなことがあったとしても、顔を上げて笑っていよう。
 笑って勝ちに行こう、と。

髙田さんの描く主人公の女性は、『みをつくし料理帖』でも『あきない世傳 金と銀』でも、「もうこんな辛いこと、乗り越えられるのか」と思うほどの大変な目にあう。そんななかで、くじけそうになることもあっても、這い上がる。胸の奥がぐぐぐっと、締め付けられる。ひとが、物語が、生きている。

言葉がうつくしく、脈の気配がするほどに生が匂い立つ小説。すきだなあ。ほれぼれしてしまう。

比べればちっぽけなわたしの困難に、こんな女性たちみたいに、挑んでいきたいと思うのだ。

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