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あなたを選んでくれるもの

「あなたを選んでくれるもの」という本を読んだ。企画メシという講座で講師で登壇されていた、ノンフィクション作家の川内有緒さんがおすすめしてくれた本だ。

この本の著者ミランダ・ジュライの当時の状況について、訳者の岸本佐知子はあとがきにこう綴っている。

自ら脚本・監督・主役をつとめた長編デビュー作『君とボクの虹色の世界』が大きな評判を呼び、カンヌ映画祭でカメラ・ドールほか四つの賞をとってから四年後の二〇〇九年、ジュライは二作めの映画の脚本が書けずにもがき苦しんでいた。

スランプに陥ったミランダはインターネットの世界にどっぷり浸かってしまうのだが、あるとき、フリーペーパーに売買広告を出すひとたちに、電話をかけて家まで会いに行く。見知らぬひとへのインタビューを重ねて、リアルだけれどいままで出会わなかった世界と出会っていく。

家の庭でウシガエルのおたまじゃくしを育てている男子高校生、いろんな珍獣を育てて家のなかが動物園化している女性、足首にGPSをつけられた子供向けの本を売る男。

自身の脚本のスランプと、ときにスリリングな雰囲気さえあるインタビューのやりとり。渦に巻き込まれるように、読むわたしの心がミランダに近づいていく。

ミランダが手にした最後の答えには、胸を打たれた。そのほんの一部が、この言葉。

人はみんな自分の人生をふるいにかけて、愛情と優しさを注ぐ先を定める。そしてそれは美しい、素敵なことなのだ。

ノンフィクションのこの本には、他者との交わりが、失敗も恐怖も息苦しさも含めて描かれている。その先にある、この言葉の手ざわりが、とてもやさしい。

訳者の岸本佐知子さんは、ミランダの他の著書についてのインタビューで、こんなふうに言及している。

──では、どんな人にこの本を薦めたいですか?

岸本:生きている人なら誰にでも薦めたいですね(笑)。

でも、やっぱり、自分は孤独だと思っている人に、ミランダ・ジュライの本を読んでほしいです。孤独は「普通」なんだっていうことがわかる。孤独な者同士が一瞬触れ合うっていうのが、生きているっていうことなんじゃないかな、と私は翻訳していて思いました。

ミランダの本を孤独だと思うひとに読んでほしい、それはこの一冊を読んだだけのわたしでも、納得感のある言葉だった。

ミランダが脚本を書いた映画も、他の著書も、読んでみたいと思う。

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