現在の格差、不況という経済問題の解決って最終的には現預金課税しか無いんじゃないか?というお話


世界中の所謂先進国が少子高齢化、累積債務の拡大、経済成長率の低迷、格差拡大という問題に程度の差はあれど、似たような状況に陥っています。

不況の原因は様々に仮説が挙げられます。革新的な生産性の向上が見込めないために将来所得の伸びが期待できず足元の消費が弱い、ヒト、モノ、カネの自由化による価格破壊だとか、少子高齢化社会の深刻化による引退後の資金の積み立てによる不況だとか、色々あります。そしてこの不況に付随して政府債務残高が積み上がっていきます。

不況というのは実物である生産物の投資と消費が伸びず、将来を悲観してそれらの実物の代わりに金融資産=お金を購入することです。お金とは誰かが銀行で借り入れをすることにより作られる(一般的に信用創造という)わけですが、不況になると政府以外はお金を借りる勢いが落ちますから、必然政府債務残高は拡大します。

つまり企業+家計の預金量の増加は政府債務残高の拡大を背景にして拡大しています。政府の財政が危険だと警鐘を鳴らす人は多いですが、警鐘を鳴らしている人たちは自らの預金残高を見て安心していそうな気もします。皆が預金残高を見て安心しているからこそ、政府はいくらでも政府債務を拡大できるのです。自分の資産は誰かの債務によって裏付けられているという実感は本能に反するのか、多くの人が理解していないと思われます。

政府の資金供給によって家計、企業という民間経済主体の資金繰りが安定化します。それが景気が良いとも悪いともなんとも言えない現在の小康状態です。

民間への資金供給政策を金融機関向けに限定して行う(ベースマネー供給)能力を有するのが中央銀行、金融機関も含めたもっと幅広い対象に向けて可能(マネーストック供給)なのが政府だと切り分けられます。前者は金融機関にしか介入できないがそのかわり議会の承認を得る必要がないので機動的であり、後者はその逆であるという特徴があります。

しかしどちらにせよ資金供給を拡大したところで実物が沢山購入されて所謂「マトモな賃金の雇用」が増えるところまではいきません。民間預金(マネーストック)と、銀行の中央銀行預金(ベースマネー)がいくら膨らんでも名目GDPが勢いよく伸びない、インフレが起こらない、端的に言って景気の良さを多くの人間が感じられません。

実体ある商取引が活発に起こらずに、民間に供給された資金は預金口座から動かずにひっそり眠ったままです。取引が行われるとしても株式、保険、大都市の一等地の土地などお金と性質の近い高い流動性を持った取引が中心になります。これでは経済活動に絡む人が少ないですから実体経済が動かないわけです。

私はこの小康状態を打破するには最終的にはMMTで言うところの「債務ヒエラルキーが高いもの」に強い課税をするしか無いのではないかと強く考えるようになりました。一般的な政策で言えば所得税や法人税、資産税の強化、公的保険料や消費税の減免等いわゆる累進課税政策ということになります。

根拠としてはいくら累進課税が弱い状態で資金供給しても末端まで行き渡らないからです。仮に社会保障で直接貧困者に給付したところでそれらのお金は経済活動を通して大企業等の金余りセクターに吸収され、彼らにお金が戻ってくることはありません。公共事業などを発注しても累進課税が弱いので上の方で多くのお金がピンハネされてしまい、これも同じことになってしまうでしょう。半永久的な政府債務の拡大と不況から脱するのはこれでは難しい。

カネ余りのセクターにお金を使わせるには、金余りのセクターからお金をとってしまうのが一番手っ取り早いわけです。資産性の高い=債務ヒエラルキーの高いモノの保有に高い税率を課すと、金余りセクターは債務ヒエラルキーの高いモノから低いモノへの購入対象の切替をせざるを得ません。

身近な例で言えば相続税を考えればわかりやすいです。現預金、株式、土地は年数経過による評価減がないですが、還暦くらいで土地を売って余った敷地に木造住宅を建てれば相続が発生する頃には経年劣化を見込んでの評価が行政によってされ、建物の評価は殆どありません。相続対象になる評価額が下がります。

こういった資産性の高いもの(=お金に近いもの、債務ヒエラルキーが高いもの)を実物的に劣化するものに転換していくことを奨励するような制度を構築しないと、どうやっても金詰りを起こしてしまうと思うのです。現状では企業はリスクを取って革新的な商品を開発したりまともな賃金の雇用を増やすより、社会全体の発展に寄与しない資産性の高いモノを購入する動機が高まります。人を雇うこと自体がリスクですから長期的に抱えず使い捨てにする傾向も強化されてしまいます。非正規雇用の拡大です。

社会保険料や消費税は投資に成功しなくても一律で負担する必要性があります。つまり資産性の低いモノに課税することになりますから実物経済を停滞させます。現役世代の老後生活を支えるのは未来の実物商品なのにそれらの生産増を妨げる税制は本末転倒なように私には見えます。

このような制度構築が長引く不況と格差拡大に繋がっており、両方を同時に解決する手段として累進課税(資産性の高いモノの保有者に多くの税を課す)は有望だと考えます。

ただし国債も法定通貨も政府が発行している借用書のようなものであるという意味で本質的な違いが無いため、預金課税とは国債保有者から直接国債を取り上げるのと大差ない政策です。つまり事実上のデフォルトです。

ですから政府は政治的にその政策を選び難く現在の小康状態を脱することが出来ないのでしょうし、同意を取り付ける手段も私にはわかりません。

世界同時的に同意に成功したのは二度の世界大戦時だけとのことです。その特殊な環境の際に富裕層にこれらの課税を飲ませる国民的同意が得られたそうです。この経緯によって所謂西側諸国として知られた先進国に普遍的に見られ、過去のものになりつつある富裕層への強力な負担の要求をするような所謂福祉国家が形成されました。同時に政府債務問題も当時存在しませんでした。そして高い経済成長率を達成しました。今はすべてが逆回転しているように見えます。

率直に言って累進課税とは恒常的なデフォルトです。そのデフォルトを富裕層に飲ませないと経済は健全にならないということです。当然ですがよっぽどのことがないと政治的に不可能だということです。

世界大戦が過去のものになり平和が当たり前になると共同体内部における内部闘争はかえって激化してしまう。平和でも平和でなくても人間はいつも争っているということです。争い方と争っている相手が違うだけです。とても哀しいですが、この問題を乗り越える方法をまだ我々は獲得していません。

今日はここまで。

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