見出し画像

ぜいたく時間

泣いたり笑ったりするのも体力が要る、と知ったのは大人になってからだった。

子どもの頃はそんなことお構いなく、毎日爆笑したり大泣きしたりしていたのに、すっかり老けてしまったなぁと思う。感情を表に出すことに、準備が要るようになってしまった。ひと泣き、ひと笑い分のエネルギーは、大体お茶碗一杯分のごはんと同じくらいだと思っている。それを放出するために必要な環境、場合によっては人、そしてメンタルの安定。すべてが揃っていないと、感情を外に出すことに対して躊躇ってしまう。
 
だからここ最近、心の琴線に触れる映画や芸術に触れるときには一番穏やかに、かつひとりでいられる深夜を選んでいる。それでもやっぱり、今日は”感情人間”になりたくないなと思う時がある。柔らかくほぐし、薄いピンク色の心にして、身体の調子を整えるにはそれなりに時間がかかる。ゆえに、作品に触れるタイミングにはとても慎重だ。
 
「この映画いいよ」「泣けるよ」「このマンガ、心が揺さぶられるよ」
 
そんな風に友人たちから教えてもらった作品も、自分のタイミングで、ここぞという時に触れるようにしている。タイミングと運命。それが私の中の、作品に触れるときに声に出して言いたい金科玉条だ。今日じゃないと思ったら観ない/読まない。自分の心に問いかけて決まることなので、この察しは何よりも正確で的確なのである。
 
なんだか大変そうだね。作品に触れるのやめちゃえば? そう思う人もいるかもしれない。だけど、料理の仕込みのように時間をかけ、そして自分という不器用な人間にいちばん優しく、寛容になった結果味わう珠玉の作品たちは旨みが違う。段違いに味わい深く、心に残り続けるのだ。
 
そういう瞬間を誰よりも、何よりも愛している。
感性が鋭いゆえに生きづらいと感じるときもあるけれど、手の込んだディナーのような鑑賞時間を大切に、これからも楽しんで生きていきたい。
 

そんな私が最近観ているドラマ『モダン・ラブ』を紹介したい。

NYタイムズ紙に寄せられた読者からの体験談をオムニバス形式で映像化した本作。“思いも寄らない人物との友情。失恋のやり直し。転換期を迎えた結婚生活。デートとは言えないかもしれないデート。型にはまらない形の家族”とあるように、そのどれもがタイトル通り”現代的な愛”を描いており、単純ではなく様々な事情の込み入った複雑な人間関係を描いていて、私の好みにベストマッチした。
”愛は複雑であり、その複雑さこそがいとおしい”というテーマに長年興味を抱いている人間なので、まるで私のために作られたかのようにフィットするドラマに出会えたことに喜びを感じている。
今夜、残り3話を一気に観ようと思う。素敵な夜になりそうで、今から楽しみだ。
 
2022.8.24



この記事が参加している募集

おすすめ名作ドラマ

頂いたサポートは新しいコラムやレビューを書くための映画鑑賞や書籍代に充てさせて頂きます。何か心に残る記事があればぜひ、お願いします!