青春とは喪失であるらしい。
ならば僕はここにある、この壺に喪失をコインとして毎晩捨てていこうと思う。僕はもう僕の人生を歩いて行きたい。他人に支配されることなく自由気ままな精神で生きて行きたいと思う。

今この場でウンコをするのだって自由だ、なんならこの壺にしてしまうのだって自由だ！自由って何だ！何をしてもいいのか！そんなはずはない、そんなことが許されるはずがないというようなことさえ自由だったらルールなんて必要がなくなってしまう、それは駄目だ。ルールありきの自由だ、僕もようやくそういうことが分かるようになりましたよ、お母さん。。

そういえばお母さんはよくルールに縛られていましたね、僕はそんなお母さんをみて育ちましたね、でもたまに平気な顔でルールを飛び越える瞬間がありましたよね、僕の小学校の参観でトイレに行きたくなったあなたは堂々と空いている男子便所に入っていきましたよね、次の日から僕のあだ名は『オカマの子』になりましたよね、仕方ないですよね、子供の世界ですからね。お母さんはルールを知ってしまうと縛られてしまいましたよね、僕はそんなお母さんを可哀想に思っていましたよね、だけど僕はお母さんになることは出来ないからせめてあなたの人生を遠くから照らす灯台になりたいと思いましたよね、僕が兄弟で誰よりも一番賢くなって助けてあげなきゃと思いましたよね、僕は灯台になれていますか？お母さん、もう僕のことは分からなくなってしまったお母さん、この壺の中には僕の青春のコインが沢山入ってるんだよ、みてみてよお母さん、これを眺めると自分の事を何か思い出せるかもしれないよ、お母さん、さようならお母さん、さようなら、さようなら何も出来なかった小さな僕、さようならノスタルジー、さようなら青春、さようなら、さようなら。

次の瞬間、壺はあっという間にアスファルトに叩き落とされ、コインと割れた陶器の破片はごちゃ混ぜになり、風に飛ばされ、何処までも何処までも散らばっていった。
それを必死になって拾い集めようとしたホームレスが車道に飛び出して、運悪く走ってきたダンプカーに撥ねられてあっ！という間にコインになった。僕はそれを拾ってあげて新しい壺に入れてあげた。カチンと短い音が響いた後で、また静かになった。

#ショートショート #青春 #コイン