違うけど、友達<お話>

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 幸彦(ゆきひこ)くんは「工作」、大地(だいち)くんは「絵」。鈴(すず)ちゃんは、「さいほう」。

僕の、わたしの夏休み<宿題編>

 黒板の中央に、少し大きく書かれている。与えらられたものではなく、チョイス。いくつかの中から、自分で選ぶ。正美(まさみ)ちゃん達の班は、アニメ映画を見にゆくらしい。

 「真理(まり)ちゃんは、どうする?」「どうしようかなぁ?」3班でまだ、何も書いていないのは、わたしだけだ。

 「髪型の研究!お兄ちゃんに協力して貰えば?」大地くんが、言う。わたしのお兄ちゃんは美容師で、大地くんの家の近くにお店がある。大地くんのスポーツ刈りは、わたしのお兄ちゃんがしたものだ。

 「え~っ、やだぁ。写真、、、、先生!写真にしていいですか?」 班と班の間を歩いていた先生が振り返り、わたしを見る。「写真?何の?」「お兄ちゃんの。美容師なんです。お店をやってるの。だからお店で働いている所や、ウチに来た時のの写真を撮って、かんさつ日記みたいのをつける」「それは楽しみね。黒板に書いて、クラスのみんなに知らせましょう。お書きなさい」「はい」大きく頷き、わたしは黒板の前に立った。

「工作 でっかいダンプカーを三台、ちっこい車を五台、作る。貯金箱にもちょう戦したい」         山川 大地(やまかわ だいち)

「さいほう お出掛けバッグを、妹に作る」  美濃 鈴(みのう すず)

「絵 山の景色を一まい色鉛筆でかく」  扇 幸彦(おうぎ ゆきひこ)

 班の最後をキメるとばかりに、チョークを握って書き始める。

「写真 美ようしのお兄ちゃんの、すがたをとる。かんさつ日記をつける」               戸板口 真理(といたぐち まり)

 手についてしまったチョークの粉を、軽くはらう。これがわたしの、夏休みの宿題だ。

 四月。三年生になったわたしは、胸がドキドキした。クラス替えがあったのと、とうとう自分で、時間割り表を作らなければならないからだ。クラス替えは、問題ない。又、後藤先生なったし、鈴ちゃんや、大地くん、幸彦くんとも又、一緒。悠子(ゆうこ)ちゃんや、時将(ときまさ)くん、正道(まさみち)くんも、面白そうだ。けど、時間割り表。コレが結構、問題だ。

 小学部の3年生から、時間割り表を自分で作る。4月15日までに、担任の先生に提出をする。

 わたしの学校では、決まっている。学校は土曜日まである。月曜日から金曜日の午前授業。1時間目から4時間目までは、学校が作った時間割り。何の授業かは決まっているけど、5時間目と6時間目は、自分が作った時間割りで授業を行う。土曜日も同じ。午前中だけ授業があるけど、土曜日は全部、自分が作った時間割りで授業をするのだ。

 中等部、高等部と段々、学年があがるに連れ、自分時間割り(?)。自分で作った時間割り表で授業をするのも、学校の決まり。段々、慣れっこ。毎年作るので、中等部に上がる頃には、お手のものにもなるらしい。けど、小学部3年生。初めての体験者であるわたしは、ドキドキしかない。 

 ママに相談してみたけど、答えになっていなかった。「あ~っ、3年生だものねぇ。そうよねえ、学校の特徴だものねぇ」感心したように言い、「ママは、ダメなのよ。自分で考えるって言うのが。苦手なのね。与えられた事は、ちゃんとやる。完璧にこなす自信があるけども、どうもねぇ、自分で考えるのはねぇ」うやむやにされて、お終い。

 美容師のお兄ちゃんは、「いいんじゃね?テキトーで」。とても大人とは思えない発言だ。わたしより、かなり年上。15歳も年上だ。大地くんの家の近くに、お店があって、お店の近くに、お兄ちゃんの家がある。遊びに来たので相談したら、こんなんだ。「それより俺も髪型、どうにかしないと。美容師がいつまでも、角刈りじゃあなぁ。全体的にうっすら染めてみますか、茶色っぽく」(ダメだ。こりゃ)わたしの方から、諦めた。

 パパは、お兄ちゃん以上にダメ。ダメダメだった。アイス・コーヒーを飲み過ぎて酔っ払い、グーグー寝ていた。口の下に立てた髭から、コーヒーと砂糖の混ざったにおいがする。お酒が飲めないパパは、代わりにコーヒ-。 中でもアイス・コーヒーが大好きだ。外でも、家でも、良く飲んでいる。家にいる時、ちゃんと粉からミルで挽いて飲むのが、パパのご自慢なんだけど、飲み過ぎて酔っ払い、酔いつぶれてしまう。そういう体質なのである。

 仕方ないので、鈴ちゃんと相談することにした。電話をすると、「はい。美濃(みのう)です」鈴ちゃんが出た。

 「わたしもねぇ、真理ちゃんと相談しようと思っていたのよ。うん。ウチに来ない?丁度、ママのカヌレも焼きあがった所だし、食べながら一緒にやろうよ」「いいねぇ!」声を弾ませ、準備をし、鈴ちゃんの家に向かった。

 カヌレは、めちゃくちゃに美味しかった。さすが鈴(すず)ママ!鈴ちゃんのママだ。目の前にある、コップに注がれたジュースと共に、わたしはバクバク食べていた。「基礎勉強が、午前中はあるからねぇ。午後はどんな勉強をしようかな?」わたしと違って、お上品にカヌレを食べる鈴ちゃんは、独り言みたいに呟く。「そうなんだよねぇ」やっとわたしも、鈴ちゃんの家に来た目的を思い出し、真面目に取り組み始めた。

 「勉強」自体が、わたしの学校と、他の学校とは違う。

 「基礎勉強」。「国語」「算数」「理科」「社会」。午前の4時間は、これがびっちり組まれているけど、割合いが他の学校とは、全然違う。受験の為。高校受験とか、大学受験の為には、全くやらない。どうしても生活に必要、知識として必要程度が、わたしの学校の「勉強」だ。

 「国語」は、どの学年でも、一番、多い。特に漢字の「読み」や「書き」。「為替(かわせ)」「若干(じゃっかん)」「五月蠅い(うるさい)」などの日本ならではのものにも、しっかりとやる。三年生はそうでもないけど、四年生、五年生と学年があがるにつれ、国語の時間が増えて来る。

 「算数」は、足し算、引き算、割り算、掛け算と、割り合い。「何%ですか?」と、面積。「理科」も、力を入れているわけ訳ではない。「社会」は県庁所在地と、名産、名所、出身人物。ざっというと、これだけが小学部の勉強。中学部になると、少々「英語」がつく。高等部は、少し学科が増えるけど、ざっと流す程度らしい。

 受験の為。高校受験とか、大学受験の為には、全くやらない。どうしても生活に必要、知識として必要程度を「勉強」と、我が校ではする。

 <入学に向けて>に、ちゃんとある。入学試験はあるけども、学力テストはない。洋服が1人で着られて脱げて、畳めるとか、お片づけが出来るとか、或る程度、文字が読めるとかだったと思う。入学すると、受験の為の勉強は全くしない代わりに「基礎勉強」は、みっちり仕込む。ちゃんと理解し、満点のテストだらけになるまで、わたし達はやらされる。けど、おだて上手。わたし達1人、1人の性格に合わせ、おだててくれる先生が多いので、仕込まれるのも楽しみだ。

では、自分だけの時間割り表。月曜日から金曜日の午後。5時間目と6時間目の授業と、土曜日。午前中だけある授業の、1時間目から3時間目までの授業は、何をするのか?

  自分の好きな事を、やるのだ。

 本を読みたい子は、読んでいい。漫画でも何でもいい。アリのかんさつをしたい子は、プラスチックの中に入れたアリたちを、ずっとかんさつしたりする。寝ちゃう子もいれば、元気に走り廻る子だっている。音楽室から合唱が聞こえたりもすれば、写真を撮るのが好きな子が、モデルを探しにカメラを手に持ち、校庭を歩いていたりもしている。

 専門家が来てくれて、その分野の話をしてくれたり、教えてくれたり、アドバイスしてくれたりもする。高等部の途中から、専門家の助手となり、その道に進む人も多い。

 「わたし、<お菓子>にしようかなぁ?」鈴ちゃんが言った。「えっ?お菓子?ママに教われば、いいじゃん!」残りのカヌレを大口を開け、頬張りながら、わたしは言った。「確かにママもいいんだけどね、忙しいじゃん。家事とかで。それに洋菓子専門だし。だから学校では、和菓子とか、中華菓子とか、そういうのをやってみたいと思って」「あ~っ」「真理ちゃんは、どう?決まった?」「う~ん。どうしようかなぁ?迷うわぁ」

<お菓子><写真><読書><図画・工作><音楽><体育>、、、。

改めて選ぶものを見る。どれもこれもいいような、悪いような。「<写真>にすれば、いいじゃん!」「え~っ。写真」「そっ、写真。この中で真理ちゃんに、一番、似合ってる。わたし、真理ちゃんが撮った写真、見たいわぁ」「そう?じゃっ、リクエストにお応えして」。だから夏休みの宿題を「写真」とした訳ではないけど、瞬間的に口からでてしまったのだ。

 どうにか出来た時間割りとわたしを見て、鈴ちゃんが言う。

 「わたし達って、友達だけど、違うねぇ」「えっ?」「同じ学校に通ってるんだけど、違うじゃん」「どこが?」「背の高さとか、住んでる所。声も違う、顔も全然、違うじゃん。書いてる字も違うし、使っている筆箱も、鉛筆も、定規だって違うよね」確かめる。ホントだ。革製のペンケースをわたしは使っているけども、鈴ちゃんはミッキーマウスの缶ケースだ。わたしは2Bの鉛筆を使うが、鈴ちゃんはシャープペン。キティちゃんのである。

 「けど友達。違うけど、お友達。違うけど、同じ。面白いね」笑う鈴ちゃんに「うん」。大きくわたしも笑った。            <了>





 






























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