不運と不幸に両手足ぜんぶ絡めとられて生きてきた私なので、少しくらい暗くて湿っていて恐ろしい環境の方が落ち着くし、光の届かないような何かの底の底で膝を抱えて丸まって眠っていたい気持ちがあるのよ。
あったかくてふわふわの布団なんて嘘だし、あつあつでほっぺが落ちそうに美味しい食事なんて暴力だし、誰かと愛し愛されることのできる環境や生活なんてフィクションでしょ。
不幸よりも幸福の方がよっぽど怖いと思わない？私は思う。

だって、夢見て、期待することが一番恐ろしいよ。
そこには、「どんなに夢に描いて望んでも叶うことがなくて絶望してしまう私」が必ずセットになってるもん。
だったら最初から何も求めずに、静かで冷たくて、独りぼっちの地獄にいたほうがいいでしょ。
ステーキなんてパフェなんて想像しないで、泥みたいなべちゃべちゃの何かを口の中でもぐもぐしている方が救いがあるでしょう。

そんなふうに生きているもんだから、ここ最近私を取り囲む幸せを見て、ふと「もしかしたら、全部夢なのかもしれない」って思うことがあるよ。
あのとき死のうとした私、死んだ私が、腐った脳で夢を見ているの。幸福な夢。安寧とぬくもりの夢。
全部、ただの妄想で、目が覚めたらやっぱり私は「どうしようもない環境」にいて、私はそれをもう自分の力ではどうすることもできなくって、「ああ、そうだよな」って夢見る自分を自嘲して。
そうやって、どうしようもない地獄でゆっくり死んでいくのが、「本当の私」なんじゃないのかなって、たまに思う。

幸せになりたくて、自分でできる努力を全部して、自分の力と周りの助けでなんとか地獄から抜け出して、やっと幸せを掴んだんだ！ってやってきたのに、急に幸福が怖くなる。
私のいるべき場所はここではないんじゃないか、って思ってしまう。

だってそうでしょ？
酔って怒って暴力を振るって、拳を振り上げるだけで怖がる相手を見て、「怖いのか！これが怖いのか！」って恐ろしい目で笑うのが男の人でしょ？
性的なことで頭がいっぱいで、女がそれ以外の面、例えば仕事とか友人関係とか生活とかに少しでも侵食してこようものなら「死ねメンヘラ！」って突き放すのが男の人でしょ？
幼い娘をじろじろ見て、にやにや笑って股間を大きくするのが、父親ってもんでしょ？

それで、自分ができなかったあれやこれやを詰め込んだ夢のお人形、を娘で実現しようとするのが母親でしょ？
仲間同士でたくさんひとの悪口を言って、マジョリティになった気になって、気に入らない少数派をボコボコに叩いて笑うのが女の人でしょ？
自分のことを賢いと勘違いして、自分の意に反する相手を見下して否定して叩き潰して、みんなに褒められないと気が済まないのが女の人でしょ？

上司は部下のことをフィギュアのオプションパーツくらいにしか思ってなくて、安く交換できるしなんなら好みじゃないからなくていいゴミ、役立たずのゴミだって思っているのが普通でしょ？
自分は客だと威張ってるおじさんは、ストレス発散なのか知らないけど若い女性従業員のこと大声で何時間でも怒鳴るでしょ？
みんな恋人のことも学歴のことも年収のことも、自分を飾るためのステータスでブランドバッグだと思ってるでしょ？そこ並列でしょ？
高齢者は若者に「もっと自分を敬え！助けろ！」って図々しく大声で要求するものだし、若者は高齢者に「うるせえさっさと死ねよ老いぼれ」と思っているのが普通でしょ？

ちがう？

現実的には、「そうじゃない人もいるよ」が正しいことはわかってるよ。
どこかにはいるんだろうね。地球の裏側とか。
でも、私はずっと、「そうじゃない人」に会ったことがなかったんだよ。
大体みんなそうじゃん。
なんだかんだ言って、自分が一番大切でしょ？わかるよ、そうじゃないとおかしいもん。
無償の愛をくれるだとか絶対的味方だとか言われる親でも、自分が一番大切だったんだもん。知ってるよ。それが普通だよ。
誰かのために生きるなんて無理だよ。そんな人いないよ。地球の裏側か宇宙の果てにしかいないよ。見えないよ。私には見えない。

だから、今更、あたたかい布団があって、美味しいご飯もあって、毎日湯船でゆっくりできて、大好きな人が、私のことを大好きだって言ってくれる環境が、ここにあるなんて。
恐ろしいよ。絶対に夢だよ。こんなのおかしいよ。
そんなはずないもん。
世界はそんなんじゃないよ。知らないの？

地獄で地獄に地獄が、私が、私のことを、一生苦しめて離さないのが世界のありさまでしょ？
酸欠の脳に僅かながら酸素が流れてきて、その苦しみで、その喘ぐような呼吸で生命を実感するのが人生でしょ？
寒い日の地獄の業火とか、暑い日の冷たい殺意とか、そういうもので「生きてる」って感じるのが人間でしょ？わたしたちでしょ？

それが、今更、今さら。
世界が優しくてあたたかいの、嘘だよね。夢だよね。
平和と幸福に囲まれて生きているの、なんだか、現実味がなくて、本当に。
全部夢なんじゃないかって思うよ。
ぜんぶぜんぶ。

夢なら覚めないでって、思うけど。
でも、どうせ覚めるなら、早いうちがいいなあとも思う。

だって、天国から地獄って、落差がすごいでしょ。
昇れば昇るほど、落ちる距離も長くなるでしょ。
だから、どうせなら、まだ入り口の段階で。落とすなら落としてくれよ。

そしたら、目覚めてそのまま、死ねるのに。
ね。

という感じで今回はメンヘラ芸でした。PMSで気が狂うお家芸。
まあ、実際にこんなようなことを心の底では思ってはいるけれど、今は割と幸せに暮らしているよ。うん。
地獄を隠せるのが大人だし、ハッピー面するのがマナーなので。
知らんけど。

ではでは、今回はこのへんで。