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連載小説「甘美に……」(3)

部屋に戻り、パソコンを開けると見慣れないアドレスからメールが来ていた。どうせ迷惑メールだろうと思い、削除ボタンを押しかけたが手を止めた。そこには、清が載った新聞を読んだ旨が書いてあった。どうやら地元の美術館からのようだった。

清も企画展がある度に何度も連れていってもらったことがある。お世辞とも取れる文章が並び、気恥ずかしくなったが嬉しくもあった。本題は、新聞記事の感想では無いようだった。

つきましては、一度お会いして話をさせていただきたいとのことだった。何だろうと清は思った。メールでは言えないということは、ご褒美に年間パスポートなんかくれたりするのだろうか。

田舎の古い美術館と言えども、ここら辺では旗艦美術館のような役割もあるのでそれはそれでありがたいことだと思った。都合のいい日時を指定して、すぐに決まった。

自室兼アトリエ部屋に、美術館の女性はやってきた。活発でフットワークの良さを感じさせるお姉さんといった印象だった。差し出された名刺に加藤美咲と書いてある女性は、美術館の学芸員だった。

清が紹介された新聞記事を見てから、インターネットで清のホームページを見て、何よりその絵に惹かれたということをハキハキ、熱っぽく話した。絵を褒められること、しかも専門家に言われることは清にとって光栄なことだった。

しかし、ただ絵の感想を伝えに来ただけというのもおかしな話だと思った。何か本題があるのだろう。

思った通り、話が尽きると美咲は切り出した。

「うちは大型企画の他に、地元の画家さんの応援の意味も込めて、地元の画家さん限定の展示もしているんです」

そのことは、清も知っていた。

「そこで川島さんに、うちの美術館の企画展示をしてほしいんです」

パッチリとした目でそう言われるのとほぼ同時に清の答えは決まっていた。

つづく

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