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【私と本】とんかつあさ川のつけあわせ

 大衆食堂。
 私はあまり外食をしないため、縁がない場所なのだけど安西水丸さんのこの本がだいすきで、何度も開いてしまう。
 先日図書館の本棚で見つけたのは東海林さだおさんの『大衆食堂に行こう』というタイトルの本で、あれっとおもった。水丸さんのと同じタイトルだろうかとおもい借りて帰る。確認すると水丸さんのは『大衆食堂へ行こう』だった。

 大衆食堂といっていいのか、店の近所にあった『あさ川』というとんかつ屋にときどき家族で食事に行っていた。うちの父は喫茶店の盛りあがりが去りつつある90年代ごろに、地元のとんかつチェーンに出稼ぎ(でいいのかな)に行っていて、そのときの先輩が独立したのがあさ川だった。

 あさ川の店内はカウンターに6席と4、5人が座れる座敷席が3つほどといったつくりで、とんかつ定食の他、かつ丼や生姜焼き、焼き魚の定食などがあった。店主も奥さんもわりと無口で、愛想があるほうではないという、ごく一般的な定食屋といった店だった。昼はサラリーマンなどで賑わい、夜は家族客の他ひとりで瓶ビールとおかずをとって食べるおじさんが見られるというような、そんな店だ。

 あさ川のとんかつはおいしかった。私の同級生なんかは、それまで苦手だったかつ丼を食べられるようになった店だと言っていた。
 あさ川のつけあわせは、千切りキャベツとくし切りのトマト、それからスパゲッティサラダといったところで、このスパゲッティサラダが私は好きだった。キュウリやハムなんかを入れていない、具なしのスパゲッティサラダ。

 あさ川は10数年前に閉店してしまったので今はない。立ち退きだったのか、ただの引退だったのか憶えていないけれどとにかく閉店してしまった。あのスパゲッティサラダはもう食べられない。
 これが懐かしく、簡単(なはず)に作れるから作ってみるけれどあの味にならない。柔らかめに茹でられた麺に、マヨネーズだけであえるよりもしっとりとしていて、ちょっとだけ甘くて、つるりとしていた。ヨーグルトを加えてあったのだろうか、砂糖が入っていたのだろうか、ちょっと再現できなかった(そんなにたくさん食べるものでもないし)。

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 水丸さんの本の初版は2006年となっているから、これももう15年も前の話、閉店している店もけっこうあるかもしれない。イラストレーションと彼の文が好きで何度読んでも飽きない。連載のかなり初めの方から、食堂や定食の味なんかについてより、町の由来や歴史に触れる部分の方が多くなっているあたりは歴史に詳しい水丸さんらしい。

 東海林さだおさんのは出たばかり(第1刷2021年4月)だけど、これまでの作品からの選りすぐりなので、つまり丸かじりシリーズあたりですでに読んでいるものがほとんどで目新しさはなかった(私には)。まあ、でも、気楽にたのしめる1冊と言える。

 東海林さだおさんの本の中に、定食評論家(?)の今 柊二こん とうじ氏との対談が収められている。この方は四国の出身だと書いてある。東海林さんの大衆食堂・定食屋の定義のひとつであるサバの味噌煮について、今氏は四国にはないと言い、東海林さんが驚くという箇所があった。
 サバの味噌煮、あったっけ。私が食べたことのある定食はサバの塩焼きくらいではないか。家庭なんかでもサバを味噌煮で食べた記憶があまりない。

 あともうひとつ。
 以前、どなたかのブログ記事で読んだことについて。すりみ定食というものがあって、これは長崎特有なのではないかといった内容のものを目にした。すりみ定食。確かにどこの定食屋でも日替りで出ていたり、表の黒板に書いてあるのをよく見かける。居酒屋にももちろんあるし、家庭でもよく出てくる。そうか、よそにはないのか、と驚きというか、へえ、そうなのかとおもった。

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TKさんにご馳走してもらったすりみ定食(おいしかった)

大衆食堂へ行こう(安西水丸)

大衆食堂に行こう(東海林さだお)

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