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植物園と、風とビール


こんにちは、広野です。


お天気が冴えませんが、暑さは相変わらずですね。

近年は記録的猛暑をアップグレードし続けていますけど、今年の暑さは湿気が抜群で、日本が亜熱帯気候地域であることを思い起こさせられる。

昨年までは、午前のまだ涼しい時間に出勤し、完全に日が落ちて、アスファルトも落ち着いた頃に帰宅していた。

だから3年ほど夏の厳しさを感じることが少なかったけど、今年はニート期間に加え、クソ暑い中就活をしていたので日本の夏を感じざるを得なかった。


大人になってからの夏休みはそう何度も訪れるものではない。

今年くらいは、と思ってなんとか乗り切った。毎年は勘弁。



暑いのに暑いところへ行きたくなるし、暑いときこそ自然のあるところに行って、その場を満喫して、涼を取りたい。

エアコンがガンガンに効いた部屋は快適だが、面白みに欠ける。


涼がある有り難さを感じたい。

もちろんクーラーがない世界線ではもう生きていけないけれど。

クーラーが絶対要るけど、クーラーがない世界も楽しみたい。

私はそういう我儘なヤツだ。


つまり、風呂上がりの炭酸飲料のような快楽を断続的に欲している。

というか、美味しいビールを飲みたい。


ビールはどこで飲んでも基本的に美味しい。

でも外気とビールの温度のギャップが大きいほどビールは美味い。

広野はそういうビールが好き。


夏祭りで氷バケツに手を突っ込んで引っ張り出した割高なビールや、

動物園で動物を見ながら暑さに負けて購入した紙コップのビールや、

汗だくで家事をしてピカピカな部屋で飲むご褒美ビールや、

百貨店の屋上で未だ照りつける夕日を浴びつつ、焼き場の熱と焼ける肉や魚介の香りをダイレクトに感じながら飲むビールや、

熱めの温泉で肌から内臓まですっきりとデトックスし、リニューアルしたばかりの身体に流し込む背徳ビールが大好きだ。

今年はビアガーデンも行かなかったし、専ら自宅飲酒が多かったから味わうことが少なかったビールの美味しさを最後に一度感じたいな、と思い、板橋区にある熱帯植物園へ向かったのです。


この文面だと、ただ暑いところに行ってビールを飲みたいだけみたいな感じに見えますけど、広野は元々植物も動物も好きで、名古屋に住んでいる頃から板橋の植物園の存在は存じ上げていたんですよ。

調べたら、設備修繕工事の兼ね合いで、9月23日から来年の4月ぐらいまで臨時休館するらしく、その前には絶対行かねば思っていたんです。


大学の後輩からお出かけのお誘いがあり、付き合ってもらうことになった。


後輩は植物園にそれ程興味がなかっただろう。熱くて蒸れた温室内を一緒に歩くことになるとは思うまい。

嫌がられたら困るな、と思い、湿度が高いだろうことは敢えて言わずに連れて行った。ごめんよ。

駅から徒歩10分弱くらいの板橋の熱帯環境植物館は温水プールが併設されている。きっと植物館とプールは相対関係にあるだろう。植物館の熱や湿度を保つ為に有用に使っているか、それかプールの水の循環システムを植物館に引用しているか。

いずれにしろ、環境配慮がなされているのだろう。

(ちゃんと調べたら、どちらも清掃工場の予熱利用で成っているそう。なるほど。だから温水プールなのね。)


というか、板橋の植物館は規模自体はコンパクトだけど、入館料がめちゃくちゃ安くて、そこに一番驚いた。

大人の一般入館料金は260円。

嘘だろ。安すぎる。

だって、ミニ水族館もあるし、高山植物等を展示する冷室もある。

もう少し取って、なにか環境保全のための義援金とか研究資金とかに使ってもいいと思うよ、私は。



それで、破格の料金に脱帽したまま入館。順路は地下階から徐々に上に上がっていくスタイルだった。

地下階は先程記したミニ水族館がある。「ミニ水族館ってなんだ?水槽が何個かある程度だろう」と思っていたが、地下階ワンフロア全体が水槽展示で、予想より本格的だった。

海水の水槽展示が半分、淡水の水槽展示がもう半分。

板橋は海に面しているわけではないから維持するのは大変だろうに。

わざわざ海水展示を頑張っているのは努力値を感じざるを得ない。


淡水展示は大きな魚が多いが、色味が乏しいので、盛り上がりに欠ける。

小さな子どもや涼みに来た大人を楽しませるのは、色鮮やかな観賞魚(海水魚)が必要だ。

そういったお客を喜ばせるためにクマノミやチンアナゴ、タカアシガニだけでなく、サギフエやハコフグのような変わった形のサカナ、色合いだけでなく大きさや形状の異なるサカナを入れ、きちんとメリハリをつけていた。

淡水展示は、一般的な熱帯魚の展示中心だったが、目の前にいた小学生が身体が透けているトランスルーセントグラスキャットに大興奮していた。

そういう突飛で、展示紹介と水槽を見比べて探し出したくなるようなサカナが多く入っていた。

個人的に驚いたのは淡水の大型魚中心に展示されていた水槽で、初めて淡水のエイをみたんだけど、サイズがめちゃくちゃデカイ!!!!


普通のアカエイとかマダラエイとかでも大きな個体がいるけど、大きな個体だとそれを十分に飼育できるだけの規模の水量や水槽が必要だからかなりお金が掛かる。

水は荒川から引いているのだろうか。

淡水エイの展示自体が珍しいのに、ミニ水族館と名乗りつつこんな大型個体のエイを展示しているなんて本当にびっくりした。


その水槽、実は植物エリアへの導入になっていて、淡水の大型水槽内にマングローブをメインにした水生植物の紹介から熱帯植物に繋げていた。

なんか、誘導も抜群。

階段やスロープを少しずつ登りながら徐々に上に行く作りになっているんだけど、植物展示に切り替わっても、飽きないように食虫植物を最初に引っ張ってきて興味を惹きつけたり、バナナやマンゴー、コーヒー、コショウなどの馴染みのある植物を織り交ぜて話題性も持たせたりしていて、見ている人は本当に探検しているみたいに楽しそうに回っていた。

回廊式だったこともあり、上にゆっくり登っていくのであまり疲れない。疲れが来そうな時に「なんだこれ~!!」と気になる植物が現れて立ち止まる。

この設計した人、この植樹した人、人間のこと解り過ぎだろう。

相当な人が作ったんじゃない?と思って、最近建築系に興味がある広野さんは建築事務所を調べたところ、「滝光夫建築都市設計事務所」というところでした。

この滝光夫さんという方は植物園や園芸建築にかなり強みがある方で、何度も賞を取られているプロフェッショナルな方でした。

著書も出されているみたいだし、探してみよう。


植樹と経営は、西武系の造園会社が担っていて、なるほどだった。

西武系ならアミューズスキルも運搬も問題ないし、関係会社からノウハウを引き継ぐこともできるんだろう。だからミニ水族館は八景島シーパラダイスの管轄だそうだ。そりゃ力が入っているわ。見事に魅了された。


植物展示で、これだ!!と取りあげたいものは特別ないけれど、個人的に感動したのは植物の種類の多さ。紹介が出ていなかった植物もかなりあって、植物の種類は詳しくないので、なんとも言えないけれども、温室内は上を見ても下を見ても左右どこを向いても異なる植物が植えられていて、とても見応えがあった。

植物の量は多いのに、よく探すと知っている植物がちょこちょこ植えてある。アハ体験して楽しくなる。それでまたじっくりみてしまう。

私も小学生と一緒に夢中になってしまった。


途中で東南アジアの住居を模した休憩場所があり、室内なのに屋根があるだけで本当に日差しを避けて涼んでいる気分だった。

サーキュレーター代わりの扇風機が心地よいそよ風に感じた。

蒸し暑いのに、涼しさを錯覚した。

住居の柱につたう蔓や、通路に僅かに侵入するシダ科の葉っぱ、石に生した苔。

全てがリアルに感じた。

広野は田舎の山の中育ちなので、蒸し暑くても植物があれば涼しいような気がしてしまう。そして植生がしっかりしているほど安らぐ。



加えて広野の温室に対する好意の理由は少し特別だ。

それは秘匿感。

自然公園や花畑もいいけれど、少し良さが違う。

自生ではない植物を見つけて、逃げないよう囲って、愛でているような。

植物量が多くて、蒸していてると、植物や土の匂いも強くなり、更に汗ばんで湿気を肌で感じるほど、植物と触覚を共有しているような気分になる。

人間が植物を温室内に縛っているのに、いつの間にか感覚を植物の世界に縛られていく。エロスのようなものだろうか。

理解されなくていいけど。


そういう感覚を味わいたいのかもしれない。

だからひとりで植物を見に行くのか、私は。

なんか恥ずかしいことを書いている気がしてきた・・・。



ちなみにこのあとは、巣鴨で「これがとげぬき地蔵か~」とかいいながら後輩と散歩をし、純喫茶でコーヒーを飲んで、高田馬場まで移動し、飲み屋を探した。

後輩が早稲田大学まで散歩しようと言ったので、時間がいっぱいある広野はこれに賛成し、早稲田通りを真っすぐ歩いた。

その間古本屋がたくさんあって、見つける度に立ち止まり、本を購入の繰り返し。早稲田の東西線の駅に着くまでに2時間ほど掛かって、日はすっかり落ちてしまった。

せっかく早稲田まで来たが、結局高田馬場まで戻って、アサヒのある渋めな居酒屋を探した。

入った店は暇そうだったが、めちゃくちゃ当たりの焼き鳥屋で、店主が優しい上、つまみは何を食っても美味い。

しかもコロナ対策で窓全開・エアコンもフルで、涼しいのに夏の夜の風を浴びながら飲む瓶ビールは最高で、田舎の夏祭りを思い出してしまった。

瓶ビールは、途中で銘柄を替えたのだが、気の利くお姉さんがグラスも交換してくださって、本当に美味しく楽しく酒を飲んだ。

幸せだ。

小アジの南蛮漬けであと3時間は居られたが、迷惑になるのは嫌なので、いいところでお愛想してもらう。

余韻に浸りながら、もう一軒、と思ってたら、短縮営業のことをすっかり忘れており、2軒目の飲み屋は1時間ほどで退店することに。

まあ、いいや。と帰りの電車に乗ろうとした時、ふと後輩に彼氏の話を振ったところ、「あ~、、、なんか別れると思います~。」と突然恐ろしい話が始まってしまい、結局ホームまで来たのに電車には乗れず。

そういう大事な話はもっと前に(できれば居酒屋にいたときに)話してよ!!!と思ったが、夜のホームでベンチに座って話をするのもなかなか無い体験だ。

そのまま、30分くらい電車を何本も見送って話続けた。


なかなか特別な一日だったな、と帰路を歩きながら、すっかり酔いの覚めた頭でぼんやり思った。

雨が降ったあとのアスファルトの匂いをかぎながら、10分ほどの道のりを行く。

足が疲れていたのかなんとなく長く感じた。

風も日中の熱風から晩夏の少しヒヤッとした風に変わっていた。

今日、居酒屋でキリンの秋味を飲んだな~、とまたぼんやり思い出す。

秋のビールも最高に美味いんだよな~、と涼しい風を切りながら歩く。

また違う『ビールが美味い季節』がやってくる。




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