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ふらり旅

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ふらりと旅した時の一瞬を、切り取って綴っています。
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記事一覧

ふらり旅 #10 (宮島)

久しぶりの宮島口フェリー乗り場は、日本語以外の看板が増えていた。見渡す限りどの看板も英語と韓国語の併記。 右も左も海外からの観光客と思われる方が多い。看板によると、JR-WEST RAIL PASS を持っている海外からの旅行者はJRが運行するフェリーに無料で乗船できるらしい。 宮島にはJR西日本が運行するフェリーと、松大汽船が運行するフェリーの二種類があり、フェリーの発着場も同じで、金額も同じだったと思う。 ただ先に述べたように、JRのRAIL PASSを持っていると

ふらり旅♯9(東京)

急流に飲み込まれるように人の波にさらわれて、あれよあれよと流されるうちに、自分でもわからない所まできた。掲げられるサインは複雑で、向かう場所は東か西か、はたまた北か南か。行きたい道がどこにあったのか、私にはもうわからない。 ふらり旅♯9(東京) 新幹線のアナウンスが終点を告げて、車窓から見える景色は少し前から乱立するビルで溢れかえっている。見える空はずいぶんと狭くなっていた。 到着した駅に溢れかえったコインロッカーはどれも赤いランプ、訪れる人の多さを物語っている。だれが

ふらり旅#8(愛媛)

吹き荒れる風によって、オイルでオールバックにした髪の毛が右へ左へ踊り狂う。2月中旬、日中は暖かくなるといっていたのに、ずいぶんと冷たい風だった。この旅行最後の場所、愛媛県大洲市にある「臥龍山荘」の庭園にて私は寒さに震えていた。 来る前のニュースでは、四国は暖かくなると言っていたけれど、上陸してみると冷たい風と曇り空で凍えることになった。途中休憩を何度か挟みながら、4時間ほどかけて目的地に到着した。古民家をリフォームしてお店をしているところが目立つ、大洲市は昔と現代が入り混じ

ふらり旅#6(島根)

塩素の匂いがした。 備え付けのシャワーで髪を洗おうと、蛇口をひねった。勢いよく飛び出してきた水は、肌に痛みを残し床に向かって流れ落ちていった。 桶を床に置く「かこん」という軽快な音が、湯けむりで少し霞んだお風呂場全体に響き渡る。 真夜中近くの露天風呂は、あかりに照らされた湯気がその向こうに広がる闇によく映えて、別の世界のようだった。 吹き付ける風に連れられて、水面を滑るように進む湯気。 無色透明なお湯に、たっぷりと浸かる。不意に触れた肩が、いつもよりつるりとして

ふらり旅#5(栃木)

 拭っても拭っても、額や首にジワリと汗が滲む。夏の駅のホームは、これからどこかへ出かける人たちの熱気やら、異常なほど高い気温によって蒸されていた。  『大変混雑しております』  北千住から特急に乗ろうと、チケットを買いに券売機へ向かうと手前に赤字で大きく書かれていた。  「そうか、世の中は今日からお盆だったか」  頭の片隅にあったはずなのに忘れてしまっていた事実に、思わず声がでた。  全席指定の列車は、午後まで空きがないというので駅構内で2時間ほど時間を潰すこととなった。コー

ふらり旅#4(VAN→NY)

数年前の夏、私はニューヨークに住む従姉妹を訪ねていた。 既にバンクーバーで半年を過ごし、海外生活の疲れが出ていた私を嫌な顔せず相手をしてくれた従姉妹に、今も深く感謝している。 ニューヨークはただただ凄い街だった。 東京すらほとんど行ったことが無い田舎者が、いきなりニューヨークでは圧倒されるのも当たり前だ。 夜になっても人は元気で、眠らない街とはこのことだと思った。 バンクーバーからモントリオール乗り換えでニューヨークへ向かう。 まず出発の時点で飛行機が30分遅れた。 そし

ふらり旅#3-4(山口)

5月1日 熱烈な太陽の日差しが、その日も朝から降り注いでいた。 青い海を背景にして、新緑美しい木々が生い茂り、その中を赤い鳥居がいくつも列なり続いている。 ずっと行ってみたいと望んだ「元乃隅稲成神社」は遠くで見る分には美しかった。 離れた場所にぽつんと一つだけ置かれている大きな鳥居は、上に賽銭箱がついており、そこにお金を投げ入れることができたらご利益があるとか、ないとか。 GWで集まった家族連れが投げるお賽銭が、箱の中に吸い込まれるたびに周りから歓声が上がっていた。 そ

ふらり旅#3-3(広島)

続4月30日 快晴の広島は、太陽が夏の熱を持って照らす。 本日の宿へ移動するため、広島駅から白島を目指す。 ほどなくして、和風建築でありながら可愛さを残す、ゲストハウス碌にたどり着いた。 住み込みのスタッフも多く、一人で切盛りされていた京都のゲストハウスとは打って変わった空間に異なる居心地の良さを覚えた。 縁あって、ここ数年で何度か広島を訪れるようになった。 宮島へは3回ほど足を運んだが、なぜか毎回干潮で、あの海に浸かった朱色の鳥居を見ることがなかなかできない。 (干潮満

ふらり旅#3-2(京都-広島)

4月30日 目が醒めるとそこは真っ暗で、外の明るさを感じなかった。 隣から聞こえてくるかすかなイビキに「ああ、 家じゃないんだった」と手探りでメガネを探す。 京都でよくお世話になる「IMAYA Hostel」は布団の寝心地も、洗面所の綺麗さも最高で、中でもオーナーが入れる珈琲の美味しさが人を惹きつける。 リビングスペースはカフェと併設されているので、朝も夜も近所の常連さんが、代わる代わる顔を出す。 ゲストハウスの常連になれば、ご近所さんとも知り合いになれるわけだ。 「よお眠

ふらり旅#3-1(京都)

4月28日 急に目が覚めた。 カーテンの向こうで、登り始めた朝日が輝いているのが布団の中に居てもぼんやりと確認できた。 日中は夏のような日差しに初夏を感じるが、やはり朝方はまだ寒いようで、首に巻いたストールとカーデガンの隙間から、冷たい空気が肌に触れた。 前日に慌てて詰め込んだバッグを連れて、私は旅にでた。 地元の小さな駅からでもキャリーバッグをひいて電車に乗る人が目につく。 世はゴールデンウィークの初日だった。 太陽が熱烈な視線を送る中、京都にて2つのお寺をみて回った。

ふらり旅#2-2

3日間ほど滞在したゲストハウスに別れを告げて、烏丸御池の駅に足を向けた。羽織ったコートの隙間から、朝の冷えた空気が忍び込んできた。 お腹の辺りからじわりと冷たくなるのを感じて、思わず肩がぐっと上がった。 バスも電車も紅葉を見に行く観光客でごちゃごちゃに詰まって、息をするのがなんだか苦しかった。好きな人に好意を返されないときみたいな、寂しさと苦しさが満員電車にはある気がした。そんなことを考えたのも、読みかけの武者小路実篤『友情』が手元にあったからだと思う。あんなに一心に誰かに

ふらり旅 #2ー1

朝の6時、長らく鳴っていなかった私の目覚ましが耳元で爽やかな音を奏でた。 眠い目を無理やり開いて、キンと冷えた水で顔を洗う。 一気に目が冷めた。 足元からすうっと冷たい空気が流れて肩が一瞬だけ上がった。 7時の電車 スーツ姿の社会人と、眠いのを我慢しながら片手にテキストを開く大学生。 イヤホンで音楽を聞き続ける高校生に混じって、旅行バックを手にした私は通勤ラッシュ時の車内ではさぞ邪魔だっただろう。着いた駅は仕事先に急ぐサラリーマンでどこもかしこもせかせかとしていた

ふらり旅#1−3

日本地図に大きく空いている穴。 真ん中のあたりに空いている穴。 そんな言い草をしたら滋賀県の方々の怒りを買うだろうか。 ほとんど目にしたことがなかった琵琶湖について、私は池と大差がないくらいに考えていた。  大きな池なんだろうと思っていたけれど、実物の湖はもっと素晴らしいものだった。湖国とはこういう場所なのだと。向こう側に霞んだ陸地が見える様子に、私はなんとなく瀬戸内海を思い浮かべた。 この美しい湖を満喫しようと、友人と一緒に「琵琶湖テラス」に向かうことにした。しかし

ふらり旅#1−2

 電車の窓に水滴が走りはじめた。車体はゆっくり、ゆっくりと速度を落とし米原の駅に止まった。吹き抜ける風は、黒の革ジャンの間を縫って私の体を直に冷やす。冬の始めを感じさせた。    友人との待ち合わせまでは少し時間があった私は、駅に併設されていた特産品の販売兼カフェに入ることにした。コンセントとコーンポタージュが私を呼んでいたのだ。寒い日のコーンポタージュは、体を内側から幸せにしてくれる感じがする。指先からじんっと温まり、お腹のそこからゆっくりと満たしてくれる。  コーンポタ