【連載小説】『パタイトのテル』3s1w「怒熱」

「姉貴?し、心配したんだぜ。生きててくれてよかった。みんなはどこだ?」

 マイクはカミーラを見てほっとしたのも束の間、彼女の不審な動きに嫌な予感がした。

「あ、あ、あ。あ……」

 カミーラは異様な気配を出している。明らかに様子がおかしい。

「カミーラ、洗脳受けて操られてる。他の子供たちはみんなつかまってるみたい」

 と、アイノウはカミーラの頭の中を覗いたようだ。

「ほんとに?!ありがとうアイノウ!」

「へっへ、」

 するといきなりカミーラはタハトたちに襲い掛かる!が、ギリギリでマイクが受け止める。カミーラは炎のように燃える鋭い爪を突き下ろした。

「タハト、すまん。俺は姉貴には勝てない……姉貴の能力は炎を自在に操る能力。その炎の操作性は精密で、曲げたり圧縮したり形を変えることまで出来る。しかも俺の炎を生み出す力もすぐ吸収してしまって、太刀打ちできない」

「……」

「ああ。でも、一つだけ方法がある。カミーラが吸収できる炎のキャパを俺の炎を生み出す力で超えてやるんだ。だいぶん無茶だけどな」

「だったら一緒に逃げよう。ごめん、今はカミーラを諦めてくれ」

「ありがとう、にいちゃん。でも、俺はカミーラに謝らなくちゃならねぇ」

「……ッ!」

「さぁ走れ兄ちゃん!この俺が姉貴を倒して絶対追いつく!」

「……わかった。ここは任せた」

 タハトはアイノウを引っ張って、トンネルのさらに奥へ走った。みんなを見つける。

 タハトの背中は熱にさらされ、後ろから猛烈な熱気と共に聞こえてくる。

「おらぁぁ!姉貴ぃ俺、俺、ごめん」

 とんでもない爆発が通路を通り、タハトたちを強く押して吹っ飛ばした。

「マ、マイク……」

 タハトは前を向き、マイクとの約束を果たそうとばかりに走った。

 ーーーーしばらく廊下を歩いていると、たくさん扉が並んでいる場所にやってきた。ここはさっきのトンネルとは打って変わって、明るく、タハトにとっては暗いトンネルよりも、一層不気味な場所であった。

「ここにみんながいる」

 アイノウは相手の知っていることを知ることができる。ある一つの扉は少し隙間が空いていて、光が漏れていた。

 隙間から中をのぞいて、誰もいないことを確認すると、扉を開けて、中へ入った。ガラスのポッドに数々の管が悍ましく刺さっていて、空間を埋めている。中身は見えにくいが、となりのコンピュータによると確かに子供たちが入っているみたいだ。

 さらにはランク付けまでされている。カミーラとマイクのポッドもあった。中はもちろんないがポッドに備え付けてあるモニターに情報があった。タハトはそれを読んだ。

「ランクA タハト・マイク。能力……パイロキネシス。強力な熱を持った炎を放出が可能。最大温度200度を突破。軍事的利用可能…… タハトーーーー?僕の名前だ……どう言うことだ」

 ほかのコンピュータを見ても(書かれていないものもあるが)カミーラやアイノウ、SランクからAランクの範囲でタハトの名が書かれていた。

「アイノウ何か知ってないか?」

「それを答えるのは、まずタハにぃの記憶を取り戻してからなんだよ」

「記憶……?僕なんか忘れてたっけ?」

「私たちも毎日記憶が消去されるの。でも、私には意味ないからちゃんと覚えてるの。今日はね、実は、記憶処理と能力者のメンテナンスのために、みんな平原から連れて行かれたの」

「……そう言うことか、じゃあ、マイクが見つけたあの死体は……」

「あれは、処分予定だった子供。だから、大人たちに殺された」

「嘘だろ……」

「ほら座って、準備ができた」

 アイノウは、タハトを部屋の奥にある椅子に座らせ、何やらヘルメットみたいな物をタハトの頭につけた。

「じゃあ、始めるよ。深呼吸して」

「……わかった」

 アイノウはスイッチを押した。タハトの頭に情報が一気に流れ込む。母を失った悲しみ、子供達をサンドバッグのように扱う大人、残酷世界の何もかも知っているアイノウのことを。

「……アイノウ。君は、難儀だな。苦しいことも、悲しいことも、僕の知っていることも、全部知っているんだろう」

 タハトの瞳から一筋の光る線が頬へ伸びていった。

 アイノウは目を大きく開け、びっくりしたような表情を浮かべた後、目をうすめ、少し笑った。

「君は彼ととても似ている。辛い記憶を取り戻したのに、まず私の心配なんだね。でも……。そうだ、コンピュータにタハトの名前が書いてある理由だったねそれはーーーー」

 と言いかけたときだ。

「いいよ、言わなくて。今は情報量が多すぎるからね。整理するのに大変だ。んーそうだなぁ。またみんなと再会して、こんな場所から出た後にでも」

「うん!」

 アイノウはまんべんの笑みを浮かべた。

 すると二人は、みんなをポッドから出す作業にとりかかった。アイノウは、迷いなく慣れた手つきで、ボタンを素早く押している。するとポッドが一斉に開き、子供たちが目を覚ました。

「やった……!」

 アイノウはジャンプしてタハトとハイタッチをした。だが、なんと言うことだろう。少しばかりはこんなことを先読みできていたのではないか、そう彼らの様子がおかしい。

 ペタペタとポッドから出てくる子供達のタイミングはピッタリで、異様な生々しい空気感にタハトは少し吐き気がした。

「逃げて!」

 アイノウはみんなが動く前に反応した。

 タハトとアイノウは絶対的な死の危機を感じた。数十人の能力者から、狙われることになってしまったのだから。


次回 明後日 投稿。

To be continued..

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?