[連載短編小説]『ドァーター』第十五章

※この小説は第十五章です。第一章からご一読されますと、よりこの作品を楽しむことができます。ぜひお読みください!『ドァーター』のマガジンのリンクはこちらです↓((一章ずつが短く、読みやすいのでぜひ!

第十五章 ために

 ギラギラとバックミラーが光っている。積荷を下ろし、解毒薬の入った段ボール箱を開けた。

 僕は一葉を止めたい。彼女のやっていることはただの虐殺だ。罪もない人をたくさん苦しめている。絶対に止めないと。それが僕にしかできないことだと思うから。

 1300万人を救うために僕は何ができるのか。どうすれば死亡者ゼロを可能にできるのか。手足を動かしながら思考を続けた。

 街の人たちは、あと3日しか生きられないかもしれない。その命の行方は僕にかかっている。失敗したくない。

 一軒一軒、薬を渡して行って、その度に僕は隠しごとをする。「僕はこの街を愛している」でも、一度この街の人々を見殺しにしたことがある。僕は言えなかった。真実を言ってしまうと、みんなを救えなくなってしまいそうで、不安と恐怖が追いかけてくるような感覚に襲われた。


 解毒薬を渡すと「ありがとう」「頑張ってね」「完治したら僕も手伝うよ」そんな言葉をかけてくれる人がいた。すると僕は、いい人になれた気がして、僕の存在を認めてくれているようで、少しだけ気分が良かった。僕は自分自身を許せていく感覚があった。

 しかし、それは一瞬のことで、僕は再び自分の犯した罪に苛まれることとなる。

 解毒薬を手に歩行者道路で病人と会話している時だった。「あ、あの人って」道路を挟んだ向こうの歩道から高い声が聞こえた。歩行者の視線が一斉に僕に向けられる。空気が重くなり、不安がこみ上げてきた。

「間違いないわ。死刑囚よ!」「ひっ人殺し!」あちこちで悲鳴が聞こえた。その悲鳴は僕に向けられていて、まるでバケモノを見るような目だった。「そ、そうだったんですか?」今、解毒薬を飲んだ男が言った。「嘘、ですよね?あなたはただの何の特徴もない、珍しいほどお人よしな一般人ですよね?」

「……」男は顔を真っ青にして、歯も震えていた。そして僕は目を背け黙っていることしかできなかった。その姿を見た男は「助けて!」と叫び、僕に背を向け、見えなくなるまで遠くに行ってしまった。

「い、行かないで。僕はみんなのために、守りたいんだ。逃げないで」これじゃ、救えない。どうしたら?という不安が僕を押しつぶすようだった。

 いや、いずれどちらにせよこうなったんだ。僕はみんなから許されることはない。でもそれでいい。僕はそれだけのことをしたんだ。でも、僕はみんなを守りたい。諦めてはダメだ。僕は妻と過ごしたこの街が大好きだ。そして本当はとても優しいこの街の人たちを愛している。

 諦めない。が、やはりそれから解毒薬を服用してくれる人はいなかった。僕の話を聞く前に、みんな逃げて行ってしまった。

 一人の少年をのぞいて。少年は僕をじっと見て、立ち止まっていた。今にも泣きだしそうな顔をしていて、少年は僕に近づいてきた。

「おじさん、どうしたの」細くて優しい声で僕を慰めてくれた。「健太!今すぐその場から離れなさい!」母親らしき人が掠れた大きな声で言った。

「でも、おじさんが……ないているから」「え――」そう聞くとお母さんも不安げだったが近づいてきた。「だ、大丈夫ですか?」僕は俯いたままだった。覚悟はしていたつもりだった。でも、大切な人から嫌われることはこれほどまで、悲しみが胸を包み込み、息苦しくなるなんて思いもしなかった。

「お母さん!今そこから離れるんだ!」すると、親子を見ていた老人が鬼の形相でこちらを睨んで言った。「でも――」「おい、あそこで親子が襲われてるぞ!」聞きつけた人が人を呼び、親子の声を聞く間もなく、細長い道具を持って僕に襲いかかった。用意した解毒薬は地面にばら撒かれ、ほとんどが踏みつけられた。彼らには毒が体内に入っていて、多少力が弱く感じた。しかし、集団の合わさった力は十分に、僕の肉を麻痺させる程の打撃だった。

 そんな中、僕は「はははは」笑っていた。笑いが抑えきれなくて、口からこぼれるように溢れ出ていた。

 僕はついに街の人間から直接罰を受けることができたのだ。僕の足枷が次々に壊れていく音がした。この笑みは嬉しい顔だ。

 僕の反撃が今やっと始まろうとしていた。

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