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[連載短編小説]『ドァーター』第九章

※この小説は第九章です。第一章からご一読されますと、よりこの作品を楽しむことができます。ぜひお読みください!
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_________本編_________

第九章 宣戦
 鉄の門をくぐるとカビの匂いが鼻をついた。
 重たい空気に押しつぶされそうになりながら僕は薄暗い道を進む。
 昨日、乙枝が受刑者になった。まさか、こんな形で刑務所に戻ってくることになるなんて思ってもいなかった。なぜ乙枝は実の妹である巴枝をあんなにも気に留め、愛していたのに殺してしまったのか。僕には理解が及ばなかった。僕は父親だというのに、娘たちを守ることすらできなかった。だから乙枝にどう接すればいいのか、全然わからない。僕はずっと娘たちを苦しめてばかりだ。
 アクリル板を挟んだ面会室に乙枝が入ってきた。彼女は椅子にゆっくり座る。そして、通声穴から反響した声が聞こえた。
「おはよう、パパ」乙枝の顔はひどくやつれていて、正気も薄く、声も細々としていた。「久しぶりね、ちゃんと顔を合わせて話しをするのは半年ぶりかしら」
 妙に乙枝は妙に落ち着いていて、僕に軽く微笑んでいた。
 僕は、変わり果てた乙枝を見て、深く頭が落ちて、上がらない。乙枝に合わせる顔がなかった。
 だけど、僕はいやでも現実と向きわなければならない。今回の面会には特別な意味があった。乙枝がなぜ巴枝を殺害したのか、行方不明でありながら、重要容疑者に指定されている一葉の所在を探るという意図もあった。でも、それが僕に務まるのだろうか。100日間ただ同じ屋根の下で暮らしただけだ。話をしたのは4、5回程度だった。
「どうして巴枝を、あの子を殺したんだ」
 この質問はあまりに僕にとって皮肉的だった。巴枝を殺したのは僕のせいだ。でも僕は捕まっておらず、牢獄の中にいるのは巴枝だ。
「楽にしてあげたかった。ただそれだけだよ」
「そうか」僕はそう言うと、乙枝は少しわざとらしく不気味に笑った。「今どこに一葉はいるか……わからないだろうか?」僕は申し訳なさそうに聞いた。
「言えない。一葉が、殺しにくる」
「わかった、ありがとう。無理はするな」
 そう言うと、乙枝は意外なことを言った。
「でも、守ってくれるなら、全部話す」
 僕は、乙枝のすぐ後ろの陰に潜んでいる警官に視線を送った。すると、警官は浅く頷いた。
「ああ、約束する。警官の人たちが守ってくれるから安心してほしい」
 僕は僕なりに乙枝を安心させようと、丁寧に言った。
「いや。警官じゃなくて、パパに守られたい」
「え――」思わず驚いてしまって、声が漏れた。僕はひどく取り乱していた。「ど、どう言うつもりだ?それは自殺行為だよ?」
「それ自分で言うんだね。でも私は、パパじゃないと絶対に話さない」乙枝はそれ以上話さない。
 警官側はそれで了承し、僕に話を進めるように促した。そして、乙枝は一葉の次の標的について話し始めた。それは予想の斜め上を行っていた。
「一葉はね、パパのことがとっても、とっても大好きなんだよ」
 乙枝から信じられない言葉を聞き、さらに彼女は、これから「この町で一葉との激烈な勝負が始る」と語った。

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続ける!毎日掌編小説。35/365..

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