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【連載小説】『パタイトのテル』1s2w「破滅」

第一章 第二話 破滅


 国は地球と同じように二つに分かれた。南半球、機械の国テクノ。北半球、生命の国アンギア。これは、そんなアンギアに住むある少年のお話だ。

「緊急ニュースです。アンギアが所持していたパタイトのテルの一部、テイルを盗まれました。これにより本来の力を引き出すことは出来なくなり……世界の均衡が崩れーーーー」

「はぁあ?!ちょっと、それ大丈夫なの?!」

 早朝、早起きなタハトは階段から降りてくると、そんな賑やかな声が聞こえてくる。お母さんはテレビを見ていて、お父さんは朝ごはんの当番だから台所で何かいいにおいを漂わさせていた。

「お母さん今日も騒がしく元気そうだねー」

「あんたなに様よ」

「おはよう、タハト。君はいいところに降りてきた。母さんご飯だよ」

 タハトは席につき、さっと朝ご飯にありついた。

 あっという間に食べ終え、タハトは行ってきますと言うと、お母さんとお父さんの行ってらっしゃいの声がやまびこのように聞こえた。タハトは少しにやつつきながら家を出る。

 学校は涼しく澄み切っていて、生徒はまだ少数しか来ていない。

 彼は体育館を目前にした廊下を歩いていると、職員室から人が出てきた。一緒にバレーボールをしている友達のアキトだ。

「ヨォ!アキト!今日もバレーボール楽しんでこー!」

 と元気な声で言った。

「あ、タハト。おはよ!おー!」

 二人は一緒に喋りながら体育館に入った。

「朝練、始めますかー」

 タハトはボールを持つなり、二人でラリーを繰り返えす。ラリーを繰り返すごとにボールのスピードは増していく。

てのひらに当たるボールは激しい音を出し、遂にアキトが隙をみつけボールを白癬の内側に入れた。

「あっ!くそー」

「相変わらずだね~」

 するとちょうどよく、一人、また一人と、一緒に朝練をしている仲間が続々と入ってきた。

「どっちもいい勝負はするんだけどやっぱり最後はアキトが勝つよね」
「アキトに追いつくのも後一歩だなー」

「もしかして、手加減してる?タハト」

「嘘だろ、そうなのか?」

「まさかー、僕が学校に来るのはさ、みんなとこんなふうに本気でバレーボールができるからなんだよ?」

 相手を思う気持ちが濁っている気がする。タハトにはそういう予感がしていた。

 彼は学校の帰り、アキトとその友達と一緒に帰ることにした。
「タハトは好きな人とかいんの?」

 友達の会話の輪から離れかけていたタハトにアキトは聞いた。
「え?……あはは、そんなのいないいない」

 急に聞かれたからかタハトは歪な笑みを浮かべ、手のひらを横に振った。

「え~いないのか~。ま、俺はいるけど絶対言わねー」

「はーなんだよそれー言ってくれると思ったから、自分の好きな人言ったのに!」

 アキトの友人は悔しそうに言った。

「また今度、誰もいないところで教えてやるよ」

 タハトはそのまま話が流れていく様子をいてもたってもいられなくなってこう言った。

「僕さ」

 彼はやっと自分から話を切り出した。

「お母さんと一緒にいた記憶が、ところどころないんだ。もしかしたら、それのせいで好きな人がわからないのかも」

「タハト重いって。あ、俺こっちだから、じゃあな」

「あ……うん」

 気付けば一人で帰り路を歩いていた。みんなは別の道だから途中で別れたのだろう。

 タハトは一人になると、ドシっと体が重たくなったように、彼の足取りが鈍くなった。1日でこんなにも疲れきっていた。家まであと角を曲がっただけでつく。後もう少しだと、精一杯力を振り絞って、一歩を踏み出す。

 その時だった。視線を角の向こうへ移すと、玄関の扉が開いた家の前に、全身まっくろのスーツを着た人が二人見えた。

「僕の家に何のようだろう。いつもはこんなことはないのだけど」

 タハトは自然にごくりと唾を飲んだ。何か嫌な予感がするのだ。そいつらは黒い背広服を着ていて、深い黒い帽子をかぶっていた。

 次の瞬間、彼らは黒くて太い腕を上げて、なにやらまた黒く光るものを家の中に向けた。そして、次の瞬間、何と言うことだろう。とんでもないことが起こってしまう。

 家の中に二発分の音と共に赤い光が放たれた。


 次回 明後日 投稿……

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