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わたしも卒業しない

「愛してやまない小説の映画化に
期待してはならない」というのは
常軌を逸して愛する小説をもつ者にとって
世の常と言っても過言ではない。
期待してはならないどころか
観ないほうがいい場合すらある
と個人的には実体験を元に考えている。
そう言いつつ、公開されたら見てしまうのも
これまた常軌を逸して愛するものの性。

そんなわたし史における常識が
今日、覆された。

「中川監督!ありがとう!!!」

TBSラジオ アフター6ジャンクション2022年12月6日放送『ブック・ライフ・トーク』feat.朝井リョウ


映画『少女は卒業しない』

映画『少女は卒業しない』

原作:朝井リョウ『少女は卒業しない』
監督:中川駿
脚本:中川駿
主題歌:みゆな『夢でも』
河合優実 小野莉奈 小宮山莉渚 中井友望
窪塚愛流 宇佐卓真 佐藤緋美  藤原季節

3月。今年の卒業式をもって、統廃合に伴う閉校と取り壊しが決まっているこの高校の、卒業式が始まろうとしている。今日という日は、ただ「高校生」を終える日ではない。この場所と、あの人と、この仲間と、あの思い出と…。子どもではないけれど到底大人にはなりきれない、まだまだままならない私たちが、そのすべてにさよならする日だ。

文:sakura.

あらすじのない映画感想文

『少女は卒業しない』への愛

朝井リョウさんの小説が好きだ。
ときに、よくこの世界で生きていられるものだ
と思うほどに、社会の闇や対人関係の穴を見つけ
戻ってこられなくなるほど深く潜る。
ときに、ゴーストライターがいるのでは
と疑ってしまうほど、淡くみずみずしく
あなたの、わたしの、過ぎ去りし日々を描く。
そのギャップが正気の沙汰とは思えなくて最高によい。
(どちらにも当てはまらない彼自身のキャラもまたよい)

朝井リョウさんの作品の若者部門では
『少女は卒業しない』が圧倒的に好き。
どうしようもなく好き。

高校3年間、まともに彼氏すらおらず
「青春」と呼べるような思い出もろくにないのに。
卒業してから一度も
あの頃に戻りたいと思ったこともないのに。
それなのに、
あの3年間の「ある瞬間」をいくつも思い出して
今はもう失ってしまった未熟さや幼さ、
ままならなさに、触れたくなるから不思議。

だからこその冒頭になるわけだが、
島本理生さんの『Red』、湊かなえさんの『母性』と
過去にがっかりさせられる、どころか
怒りが湧いてすらくるような体験をしているので
今回も試写が終わったころからツイッターで
エモいエモいと言われだしたのを見て
不安に思ってしまったのも許してほしい。

※以下、映画のネタバレを含みます。
 あまりに脚色が見事だったので、
 原作読んでる人でも観賞後に読んでほしい

エンドロールが始まる:中井友望×藤原季節

これは!わたしが最初に読んだとき!
もっとも好きだったエピソード!!!
なんで!朝井リョウさんは!
上手に巻けたと思う日に風を恨む
乙女心を!知ってるの!!!!!
なんで!シュシュが髪を結ぶ以外の
目的をも持ちうることを知ってるの!!!

というスタンスなのだけど、
映画では中井友望さん演じる作田の
先生への恋愛感情メインではなく、
クラスに居場所がないという共通項を持つ二人
としての側面が強く描かれていて
原作の出版から10年以上の月日がたった今
映画化するにあたって熟考された改編だと思った。

コテのくだりも、わたしにはできないことも
影のわたしは簡単にやってしまうくだりも
大好きで大好きで大好きなので
見たかったという気持ちもあるけどもね!

先生を好きだった経験のある者として
わたしが学生だったときは
生徒×先生ものって王道エンタメだったし
学校舞台の短篇集なら一つは入れるでしょう
と思っていたけれど、
自分が27になった今、仮にその恋が実ったとして
それって本当に「恋愛」なのだろうか
立場的弱者の「搾取」や「支配」では
ないだろうか、ということを考えたりもするので
わたし的には、よかった改編でした。

中井友望さんは、窪美澄さん原作・今泉力哉監督の
『かそけきサンカヨウ』で主役じゃないのに
圧倒的な引力のある存在感と声、意思の強そうな目に
すっかり魅了されてしまって目が離せない俳優さん。
今回は、意思の強さみなぎる役ではなかったけれど
本を取り出してからはずっとその目と表情がよくて
作田ちゃんが泣く前から泣いてしまった…

対する藤原季節さんは、さすが!
我らが藤原季節!というかんじ。
直近で観た出演作が『わたし達はおとな』なので
ちょ、あなた、こんっな優しい声で「作田さん」
って言えたの、ねえ!って内心言ってた。
ちなみに原作だと、
先生に「作田さん」と呼ばれるのが好き
というくだりがあるので
あの優しさのある響きはかなり意図していたはず。

図書室が狭すぎて気になったけど
逆にいうとそれしか気になることがないほど
二人がちゃんと二人でとてもよかった。
あと、図書室狭いなと思ったことによって
わたしが原作を読みながら思い描いていた図書室は
母校である小学校の図書室だったことに気づき、
原作との向き合い方も
深まったかんじがして、なんかよかった。

寺田の足の甲はキャベツ:小野莉奈×宇佐卓真

このエピソードの良さは
小野莉奈さん演じる後藤の心理描写。
18歳のあたしたちの前に生じる矛盾する思いに
見切りや折り合いをつけられるほど大人じゃない、
あるいは大人以上に
素直になれないかもしれないこの頃を
「あたし」という一人称で見事に描いている。
『少女は卒業しない』において最大の褒め言葉は
「あれ?朝井リョウさんってJKだった?」
だと思っているのだけど、これは特に本当にそう。

だから一番不安だった。
セリフとして敷き詰められても嫌だし、
敷き詰めなかった結果魅力も伝わらなかった
というRedの経験があるので。

けれど、すっかり杞憂だった。
脚色と演技が、心理描写の役割を
しっかり担ってくれていて、感謝すらした。

27のわたしが映像として後藤と寺田を見せられると
せっかく付き合ってるんだから
もっと素直にやだとかさびしいとか言いな!
わがままを言えるのは両思いの特権だよ!
と思ってしまうのだけど
(こうして人はオバサンになるのだな)、
高校生の頃の恋愛なんて、思えばあんなかんじだ。
(わたしは彼氏がいなかったので知らんけど)
付き合っている・両思いというだけで
なんか小っ恥ずかしくて、
一方的に思いを寄せていた頃の
「好き」という感情は個人のものだったのに
カップルになると、公の存在になるあのかんじ。
それが照れ臭くて、
「好き」以外にいろいろ余計なことを考えるかんじ。

後藤ともう一人の3年女バス部員であり
後藤の親友・倉橋役の子も、めちゃめちゃ良かった。
階段の踊り場、卒業式仕様の体育館、
グラウンドを眺めながら、自転車を漕ぎながら…
二人の会話シーン本当にどれもよかった。
当然すぎることだけど、
青春って、恋愛だけじゃない。
恋愛って、対象の相手と自分だけじゃない。
いろんな人に相談して、愚痴って、
アドバイスを参考にしたりしなかったりする。
それも全部含めて、その恋だし、青春だ。

四拍子をもう一度:小宮山莉渚×佐藤緋美

これはもう、小宮山莉渚さんの
「舞台袖が似合う度」だけで大優勝すぎた。

わたし自身が高校時代に生徒会で
学校行事すべての企画・運営をやっていた。
中でも率先する立場で担当した行事は
学校の顔でもあった
中庭で行われるコンサートイベント。
EXILEにしか興味がなく生きてたのに
そこで、コードの巻き方・ミキサー・アンプ
フロアタム・スネア・ハイハット…もろもろ
卒業後一度もご縁のないものたちを覚えた。
運営側だったので、なにかと判断を迫られる様子、
舞台袖こそが彼女のステージであったこと、
舞台袖からの景色は演者と観客の両方が見えて
企画・運営にとってはこの上ない特等席であること、
そんなことたちを思い出してしまって
杏子すら泣いてないところで
一人嗚咽する27歳。結構きついものがある

「世界が消えて失くなる前に」は使ってほしかったな
という気もしたけど、そんなこと以上に
エンドロールでヘブンズドアの曲が
作詞:中川駿って書いてあった気がするんだけど
確かだろうか…
あと歌詞なんて言ってたんだろう(笑)

原作の氷川さんの代わりに出てくる
軽音部の後輩の女の子。
あの子の「後輩感」がすごくて感心してしまった
顔・髪型・受け答え、すべてが
絵に描いたような後輩像で何度も驚いた

夜明けの中心:河合優実×窪塚愛流

これは一番、原作読んでるひとが
いや、原作読んでる人ほど、
ぐっとくるのではないかと思う。

河合優実さん演じるまなみが
夢を見るシーンから、そこは変わらないのだな
と気づきはじめて
翌朝の調理室で国旗が増えていることで
さっきまでのまなみと駿は
最近の姿ではなかったことが示され、
もう体育館に入場するときの
まなみの動揺からずうううっと泣いてた
年甲斐もなく、まなみより先に泣き出してしまった

わたしは本当は原作の『在校生代表』が大好きで
この「岡田亜弓」もなかなかやる女なんだよ!
という気持ちでいっぱいだったのだけど、
このエピソードの改編と
河合優実さんの演技が素晴らしすぎて、すぐに
送辞はいいから答辞をしっかり見届けさせてくれ
という心持ちになった。

卒業式前日と卒業式の2日間、という軸で
すごく上手にこのエピソードを入れ込んだと思うし、
わかっていればわかっているほど
最初ふたりがお弁当を食べるシーンも
リア充爆発しろ(今はこんな表現たぶんないね)
なんて到底思えず、
わちゃわちゃやってるところすら泣けてくる。
ブレザーのくだりなんて、
読み終えてカメラが引いたら…なんてことは
百もわかりきってるのに、うううってなってしまう

下手したら、わたしは
河合優実さんより泣いていたのではないか
とすら思うけれど、それもこれも
原作が大好きだったせいで、
改編が映画として最上のものになっていることが
嬉しくてたまらなくて泣いていたのだ、たぶん。

中川監督!ありがとう!

何気ない田舎町の春の風景なのだけど
ファーストカットから
カランコエだ…中川監督の映画の色だ…
と感じさせるなにかがあった。
なんなんだろう
写真や映像に詳しくないのでわからないけど
なんか、あの景色、あの光景を
ただ撮っただけでああ見えるのかというような
中川監督らしいテイストが
作品ととてもよく合っていた。

そもそも原作の小説に対しても、
この作品に対してわたしは「エモい」という
言葉を使わずしてこの作品の魅力を伝えたい!と
常々言ってるのだけれど(文字にすると暑苦しい)、
映画『少女は卒業しない』についても
概ね同じことを思う。

良作邦画に引っ張りだこの
河合優実ちゃんが主演の青春映画だから、
季節外れの花火とかそれだけで最高だから
と、そんなことに流されて
うっかり「エモい」で済ませてしまわないよう
どこがどうしてどんな風によいのかを
しっかり挙げなければならない!と思っていたら
もう4361文字も書いているし、
22:15に映画を見終えて、もう25:32。
どうしていつもこうなってしまうのか…。

Filmarksやインスタでは飽き足らず、
興奮冷めやらずnoteを書いてからでないと
おちおち寝てなんかいられない!と思うのは
原作への愛ゆえに怒りが湧いたときか
すっかり惚れ込んでしまったときの
どちらかのパターンなのだけれど、今回は
すっかり惚れ込んだ結果として
原作も今までよりさらに好きになる、という
最上のパターンで筆を執ることができて感動。

中川監督!ありがとう!これに尽きる。

青春に思い出があるひとはもちろん、
大した思い出がない人も、ぜひ。

あと、卒業式に入場するシーンで
今年中学や高校を卒業した世代はその3年間を
コロナ禍で過ごした世代であることを思い出し
わたしとは確実に異なる中学・高校時代を
経験したであろう人たちには
この年の卒業のタイミングで公開されたこの作品は
どう見えたのか、聞いてみたいな、と思った。


『少女は卒業しない』への愛

小学生の頃から、離任式が苦手だった。
純粋に「別れ」「さよなら」に弱いのだ。
強いひとがいるのかは謎だけれど、
まあ、とにかくわたしは弱いし苦手なのだ。
だって、さびしい。

ここまで書いて、どうしてこんなにも
この『少女は卒業しない』という作品が
わたしは好きなのだろうか、と思ってしまった。
それで行き着いたのが、冒頭。

ラストにタイトルが出たとき、
めちゃくちゃシンプルに
「わたしもあらゆることを卒業したくないな」
と思った。

卒業する少女たちに対して「卒業しない」
ってどういう意味なんだろうと考えて、
なんとなく、その別れやさよならを
うまくできなくてそこには物語が生まれるけれど
7人が7人のやり方で折り合いをつけて
新しい未来へ歩んでゆく。
けれど、その歩んだ先でも確実に
また新たな別れやさよならはあって…
ということなのかなあ、と思いを馳せたりした。

でも、いやだな。
ここまで考えても、ぜんぜん受け入れよう
とは思えないし、別れもさよならも嫌い。
映画の中のだれよりも
涙を流し続け嗚咽を堪えていた27歳、
今も、まだまだ全然大人じゃない。
折り合いとか、ぜんぜん上手につけられない。

大人気ないと言われても、
この分野に関してはまだ卒業したくないな。
少女でいたい。

代わりに、確定申告と納税はちゃんとしよう。

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