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ウマのいる生活

文:Rin Tsuchiya

お久しぶりです。今日は裏庭のウマの話です。

スペインの村ではご好意に甘えて空き家に住まわせてもらっています。スペインの家には、田舎だからかほとんどの家にパティオと言われる中庭があり、私の住んでいる家にもパティオがあります。オレンジの木やバラ植わっていて、ネコが勝手に出入りしています。パティオと塀を隔てて、少し開けた土地があります。お隣さんの土地です。

前回来たのは5月で、その時はここに三頭のヒツジがいたのでよく追いかけ回して遊んでいました。しかしこの競走は全く勝ち目のない上に、足元に気を使わないとヒツジのオソマがそこかしこにばらまいてあります。

しかし9月に来てみると、ヒツジがウマに変わっていました。ヒツジが三頭集まると合体してウマになるわけでもないので変わるというと語弊があります。ヒツジの代わりにウマがやってきたのでした。大家さんのウマでも、無論自分のウマでもないのですが、体格も毛並みのいい赤茶色の雌ウマです。初対面の日でも向こうから歩いてきて、なんとも愛くるしいので「ウマコ」と名付けました。

ウマコは普段草をもしゃもしゃ食んでいますが、私がパティオに出るとウマコがてけてけ歩いてきます。顔を寄せてくるので撫でてやります。ウマコは私の生活の重要な役目を負っています。それは野菜や果物の残りを食べてくれるからです。

スペインは日本に比べて野菜や果物が安いのでついたくさん買ってしまうのですが、そうすると自ずと切れ端や食べられない部分が出てきます。この前はご近所さんにメロンを頂いたのですが、可食部に対して一定の皮が付いてくるのは皆さんご存知でしょう。普通なら生ゴミ行きです。

ですが、ウマコがいるとメロンの皮もバリバリボリボリ食べてくれます。「身」の部分じゃなくてごめんね、と内心謝りながらも、野菜の切れ端なんかも投げてやります。パティオの脇に生えているイチジクの木から熟れる前に落ちた実も、もぐもぐ食べてくれます。お陰で掃除をする手間も生ゴミを出す手間もなくなります。

ウマがいるというのはなんともエコな感じがします。捨てるようなものも食べてくれるし、乗れば移動できるし(乗れないけど)、向こうから寄ってきてくれるのはなんとも嬉しいことです。この村の人はこういうことを一般的にやっています。なにせ家畜が多いので、ウマ、ブタなど食べ物の残りを食べてくれる動物には事欠きません。大家さんもウマを飼っていて、近所の八百屋さんの売れ残りをもらってはウマにあげています。

そうやって育った動物、家畜、特にこの地域の特産のブタは、ほぼ食用に屠殺されます。近所の養豚家のところで生肉された後、どうしても食べられなくて残った頭を大家さんがもらってきたことがありました。何に使うのかと思えば、皮の剥がれたその頭を頭蓋骨もなにもそのままにイヌに餌としてあげていました。大型犬なのでバリバリと骨を砕いてペロリと食べてしまいました。

食べ物の廃棄、消費、つまりは流通をとおして、人間と動物がつながっているような、そんな感覚を覚えました。

ウマコは今日も元気にいななき、野菜を食べてくれる愛おしい存在です。彼女とも食べ物の流通でつながっているんだなあと思っていたら、パティオに美しく咲いていたバラの花をぱっくり食べられてしまいました。空腹で暴れられても困るからとその場は抑えましたが、花のないトゲトゲの茎を眺めて、繋がっていても見ている世界が違うのだなと感じ、次にメロンを買ったら果肉もあげようと心に決めました。



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