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ミールスについて少しまじめに考える3-2

今回の投稿では、私が現地でインドの方から学んだミールスの食べ方を文献から考えていきます。

ミールスの食べ方

1部では、日本の本やサイトで紹介された食べ方を以下の3通りに分類できることを示しました。
①消費者が自由に食べるといった主張の自由派(ここにはランダムに混ぜる・数種類混ぜる・混ぜてもよいといった言説も含まれます。)
②料理を全部混ぜて食べる全混ぜ派
③それぞれの料理を味わう単独料理派

私がインドで教わったミールスの食べ方でおおむね共通している点は、ライスとサンバル、ライスとラッサム、ライスとカードの順で食べることとこれらを混ぜないことです。1部でみてきた日本の言説でいえば③の食べ方に近いです。

インド現地のミールスや食事について書いた本を読む

私が教わった食べ方を考えるために、1部で紹介した日本の本やサイトとは別の視点から書かれた本とエッセイをとりあげます。

『インドを食べる 豊穣の国・啓示の国』浅野哲哉著、1986年、立風書房

この本には、著者が1980年代後半から7年間にわたってインドで料理を食べ歩いた記録がイラストとともに紹介されています。35年以上前のインドの食文化が記された貴重な本です。

「南天竺定食(ミールス)探検」の項目では、ミールス[1]を食べた話が2つ掲載されています。その中の一つをとりあげます。

・南インドの定食とバナナの葉皿
著者の浅野さんがマドライ(チェンナイ)でインド料理店アジェンタのシェフ・マニさんとミールスを一緒に食べた話です。浅野さんがマニさんに教わった食べ方がイラスト付きで解説されています。本で紹介されているミールスの食べ方を端的にまとめてみます。

冒頭で、以下のようなやりとりから物語が始まります。
「アサノはミールスの食べ方、ぜんぜん知らないね。ちゃんと教えてあげるからついておいで」
「ええっ、ミールスの食べ方?右手で混ぜて食べればいいんじゃないの・・・」
「いいや、そのほかにコツがいっぱいあるのよ」

彼らが向かった先は、マドラス(チェンナイ)の純菜食料理大衆食堂(ピュアル・ヴエジテリアン・ホテル)です。
当時ミールスの値段は4ルピー50パイサ、タイール(ヨーグルト)をつけると50パイサ加算。時間は10~15時、17~20時に提供されたとのこと。

ミールスを食べる前の準備段階
料理がサーブされるバナナリーフは客からみて左側に葉先が向く。コップの水を右手ですくって、葉皿に三回ふりかけ、自分の身にもふりかける。食前のお祈りをする。ふりかけた水でバナナの葉の表面を洗う。
その後、バナナリーフにライスがサーブされる。

ミールスの食べ方
本題のミールスの食べ方ですが、著者はミールスの食べ方を第一回戦から第四回戦というように複数に区切っています。

第一回戦
まずライスの山を削って一握りほどの小山をつくる。その上にウェイターが三ラグ・ポディ(ペッパー・パウダー)とよばれるゴマと黒胡椒の粉末だ(ママ)。それに小さじ一杯ほどの精製バター(ギー)を注いでゆっくり混ぜる。
小さなカップに入ったタイール、マンゴ・ピクルス、パパル一枚、ウップ(塩)を少量ずつ盛ってくれる。
ピクルスはマンゴーやライム、ししとう、いんげんなどの唐辛子漬け。
ライスの向こう側に三、四品のおかずを盛ってくれる。そのうち一品は必ず炒めものが含まれている。おかずの内容は日によって違うから、決して飽きることがない。その時はオクラとオニオンの煮込みにキャベツととうもろこしのココナツ炒め、大根とウリのヨーグルト煮込みの三種類だった。こうして全品が勢揃いしたところで第二回戦が始まる。
第二回戦
小ぶりのバケツに入ったサンバ(野菜入り豆カリー)をライスにかけてくれる。ポイントは(・・・)よく混ぜることである。
好きなおかずを好きなだけ混ぜて自分の味を創り出せばよい。欲望の赴くままに、自由奔放に楽しめばよいわけだ。
第三回戦
ライスもおかずもおかわりする。※ライスを残しておくこともできる。主役はラッサムだ。これをごはんと混ぜて、ほかのおかずと混ぜていただく。
第四回戦
主役はモールと呼ばれるバター・ミルク。エキストラ・オーダーのヨーグルトを加えてかき混ぜると粘りが出て食べやすい。
パパルを細かくして加え、塩で味をつけて、ピクルスをついばみながら食べるとまた趣きが違っておいしい。

マニさん「おいしかったら、葉皿を手前に折るの。まずかったら向こう側に折るの。これミールスのラスト・マナーね。」[2]

この本でミールスは、数回に渡ってライスがサーブされ、異なる料理を食べ合わせていく食事として紹介されています。
こうした食事の方法は、私がインドで教わった体験に近いです。しかし、本で取り上げられたミールスはチェンナイの純菜食料理大衆食堂の食事であることから、他の南インドの地域に関しても調べる必要があると思います。

次回は、他の本とエッセイを取り上げミールスの食べ方を考えていきます。

脚注

[1]「ミールス」は英語の食事を意味するが、タミル語の「サパドゥ(ごはん)」ではバタくさいので、モダンな響きのする「ミールス」を使っているそうだ。(『インドを食べる 豊穣の国・啓示の国』:143)
[2]私がインドの方から聞いた葉の折り方と意味と異なっています。まず、マドライのレストランとカライクディでは折る方向が反対でした。また逆に折る場合は葬式などのときとマドライの家庭で教わりました。いずれも食べ終わった合図である点は共通しています。バナナリーフを折る方向と意味については今後調べていきたいです。

参考文献

浅野哲哉1986『インドを食べる 豊穣の国・啓示の国』立風書房


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