インド料理のこと4-3(結) Ethnic Cuisine: the significant 'other'/Ashis Nandyを読んで
今回の投稿で、このシリーズは終わりです。読んでいく文章は、エスニック料理と飲み物からみるコスモポリタニズム(世界平等主義)の展開です。現代のエスニック料理とビールあるいはワインの組み合わせに、ナンディーは何を思うのでしょうか。
コスモポリタンのペアリング
コスモポリタニズムとエスニック料理を味覚の視点から描写しています。料理と飲み物のペアリングを通して、この思想の性格を分かりやすく説明しているので長めに引用します。
地域から切り離されたエスニック料理をコスモポリタニズムから考えることの限界と不自然さというか、そういった点を書いているのだと思いますが、なかなか手厳しいですね。
続けてナンディーは、インド料理と「正しい」ワインの組み合わせに対してインド人の視点から料理と飲料の関係を以下のように述べています。
インド料理には、基本的に水を、アルコールを飲むなら疑わしい品質のスコッチウィスキーかアラックをあわせる。このペアリングこそ、食が帰属する文化と料理が切り離されていない状況なのかもしれませんね[3]。一方で、この素朴なペアリングを都市のアーバンライフからみた場合、若干ノスタルジック過ぎないかとも思えてしまいます。
結
ここでは、エスニック料理がグローバルな都市文化=コスモポリタニズムのもとで、どのようにとらえられているかを述べています。
ナンディーは、このエッセイの冒頭で一般的なインド料理がつくられるには、重要な「他(の)」料理である必要を述べました。
コスモポリタニズム=文化を平等にみて尊重する考え方によって、同様に食文化も平等に尊重され、重要な「他(の)」料理になると思われます。
その動きと平行して、世界の大都市で提供されるエスニック料理や食文化は、文化の代わりになっている。むしろ、現地の文化や食文化から離れて自律的になっており[3]、いずれその文化が消えたとしても、料理はその文化の替わりとしてあり続けるだろうと綴っています。
以下、感想
このエッセイは本気で読むべきなのか、どういった態度で読むべきなのかわからなくて、初めて読んでいるとき笑ってしまいました。
特に辛いタイカレーと繊細なシンハービールの味は合わない。ギネスのほうがましかもしれないが、コスモポリタニズムのもとではタイカレーとギネスのペアリングは神への冒涜と言われるかもしれない。
とか
インド料理に合うワインがないとは言うことはできない[4]。しかし、現地の人にとって水が普通で、品質の疑わしいスコッチウィスキー、アラックが良い食事になるとか。
こうした今まで知らなかった新しい考え方が書かれていたためだと思います。
あらためて、多文化言語の英語から情報を得ることができないため、日本語で書かれた本やエッセイを読むだけの自分の知識と英語圏で交わされている文化に対する意識にズレがあるのかもしれないと感じました。
私は自分自身が現代人であるか、はたまたコスモポリタンかどうか分かりませんが、料理が生まれるきっかけである地域や国の文化は尊重されるべきだと思っています。
他方で、このエッセイから伝わってきたのは、エスニック料理は非エスニックな人や場所など、外からのまなざしや言説からつくられているのではないかということでした[5]。それは、このテキストに表れていると思います。
この指摘は、文化の中にある料理を端的に描いています。しかし、これらが
都市を中心とした場所で人々に認識されることによって、現代のエスニック料理となっていることを、他(者)の料理という意味を、ナンディーは教えてくれているのかもしれないですね。
自分の学びとして、文化から自律的になったエスニック料理の事例や、文化的な料理は現地以外に存在することはできないのかといった、異国でつくられるエスニック料理のことを掘り下げて考えてみたいと思いました。
読んでくれてありがとうございました。
※主題でもある「the significant 'other'」を重要な他(者)と意訳しています。これに関して、もっと良い訳を知っている英語に詳しい人いましたら、助言いただけたらうれしいです。
脚注
[3]自律的な動きの例として、エスニック料理が「大都市で提供されるエスニック料理や食文化」の形で現地の食文化とは違う新しい食文化になっていることを想定しました。こうした動きは、生産者や消費者との関わりによってさまざまな形があると思います。Nandyは食べものと飲料のペアリングをあげていますが、私は日本へのミールスの伝わり方と言説に、料理の自律的な傾向を感じています。これについては後日記事にしたいと考えています。
[4]余談ですが、料理によって赤ワインではシラーやガリオッポは合うなってときがあります。でも、これからはウィスキーと合わせてみたいです。インド・ラクナウのホームパーティーでウィスキーが置かれていたのを思い出したので。
[5]外からのまなざしが文化をつくるという主張は古くから指摘されている言説です。詳しくは(山下1996)参照。
参考文献
Nandy, Ashis. 2002 Ethnic Cuisine: the significant 'other'.India International Centre Quarterly Vol. 29, No. 3/4, India: A National Culture? (WINTER 2002-SPRING 2003), pp. 246-251.India International Centre.
山下晋司(編)1996「「楽園の想像」ーバリにおける観光と伝統の再構築」『観光人類学』新曜社。
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