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冬の日のエピローグ

ようやくやっと、スンと落ちた。落ちたくなかったのかもしれないし、落ちたかったのかもしれない。今となってはもうどちらだったのかさえ分からない。ぬくぬくした布団に身を委ね、じんわり広がっていく眠気にも似た安堵に、「せっかく休みの前日の晩なのに」と思うときのような惜しさが少しばかり交じっているのを感じながらゆっくり目を閉じる。そういえば「認める」という感覚はこんな輪郭だったっけ。久しぶりに目の前にあらわれたそれは意外と穏やかな形をしていた。何だか複雑だけど。ぼんやりと、やはり安堵が大きいのだろうと考える。

𓆡‪‪𓈒𓏸𓂃 𓈒𓏸𑁍‬

haruka nakamuraの「ベランダにて」が聴きたいと、コンセントに繋がれた携帯に手を伸ばすも届かなかった。台無しじゃん。ちょっとのことなのに、すぐにそう思った自分の余裕のなさに苦笑する。でもこの曲が今、どうしても聴きたかったのだ。希望の持てない朝に静かにそばにいてくれ、冷え切った手足であと少し頑張れと家路に急ぐ道のりに寄り添ってくれる曲。後ろで優しく聞こえる虫の音が心地よくて、世界が優しく見える気がする。2分足らずの平穏があるだけで、いつも大丈夫になれた。

𖤣𖥧𖥣。𖠿𖥧𖥣。

今の家にベランダはない。でも、ベストと確信できるくらいには気に入っている。たぶんこれより好きな部屋にはそうそう出会えない。一目見たときの私の勘がそう言っていて、特別大きな理由もないのに引っ越しを決めた。普通の人が見れば、多少悩むであろう欠点もありはするけれど、正直そんなのどうでも良かった。気に入った、その一点でもう十分だと思った。なんでもそうだ。気に入ったの一点だけで、私はそれがお守りになる。

ᜊﬞﬞ ᶻᶻᶻ✩.*˚

私のベストはほとんど更新されない。ベターからベストへの扉がおそらく人より多いからだろう。それで困ることもあるけれど、ずっと昔からそうだからもう慣れてしまった。でも。いつまでこの家にいるのだろうとふと思い、いや見えないことに考えを巡らせても…とテレビを切るように思考を止める。「人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける」「世の中の何か常なるあすか川昨日の淵ぞ今日は瀬になる」と紀貫之や誰かが詠んだように、人の心は移りゆくものだから。今、ベストだと思うものも、もしかしたら変わってしまうのかもしれない。

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明日の夜も雪らしい。早く帰って来ようと心に決めて枕元に置いたリモコンを手に取った、冬至が近いある夜の記録。




おやすみなさい、暖かくして寝ようね·͜· 𓂃 𓈒𓏸𑁍‬

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